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日本語の授受表現の「恩恵性」の習得について ―カンボジア人日本語学習者を対象に―

日本語の授受表現の「恩恵性」の習得について ―カンボジア人日本語学習者を対象に―. 講座研究会( 2013 、 06 、 28 ) 日本語教育学講座 M1 メン コンケア. 研究の背景.  日本語の授受表現は日本語学習者にとって習得困難な表現の一つだと言われている。 日本語の授受表現 (益岡 2001 、 庵 2012 ) ・本動詞: あげる・くれる・もらう ・補助動詞: てあげる・てくれる・てもらう ・ 丁寧な形 :さしあげる、 いただく 、 くださる ・ものや行為の授受に関わる表現 (1 ) a . 私は田中さんに本をあげた。

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日本語の授受表現の「恩恵性」の習得について ―カンボジア人日本語学習者を対象に―

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Presentation Transcript


  1. 日本語の授受表現の「恩恵性」の習得について―カンボジア人日本語学習者を対象に―日本語の授受表現の「恩恵性」の習得について―カンボジア人日本語学習者を対象に― 講座研究会(2013、06、28)日本語教育学講座M1 メン コンケア

  2. 研究の背景  日本語の授受表現は日本語学習者にとって習得困難な表現の一つだと言われている。 日本語の授受表現(益岡2001、庵2012) ・本動詞:あげる・くれる・もらう ・補助動詞:てあげる・てくれる・てもらう ・丁寧な形:さしあげる、いただく、くださる ・ものや行為の授受に関わる表現 (1)a. 私は田中さんに本をあげた。 b. 私は田中さんに本を読んであげた。

  3. 研究の背景 ・日本語の授受表現はどの立場からも出来事を表現できる。 (2)a. 太郎さんは田中さんに本をもらった。 b. 田中さんは太郎さんに本をあげた。 ・しかし、視点制約が存在する。 (3)a. 私ハ太郎カラ手紙ヲ貰ッタ。 b.*太郎ハ私カラ手紙ヲ貰ッタ。 (久野1978より) ・「クレル」は、話し手の視点が、主語(与える人)よりも与格目的語(受け取る人)寄りの時にのみ用いられる。「ヤル」は、話し手の視点が主語寄りか、中立のときにのみ用いられる。「モラウ」は話し手の視点が、主語よりも非主語寄りの時にのみ用いられる(久野1978)。

  4. 研究の背景 ・日本語の授受表現はものの授受の他に、恩恵の授受も表す。つまり、「恩恵性」を表す。(庵2012) ・「恩恵性」というのはどのようなものなのか? ・本動詞構文の中に恩恵性(受益性)の萌芽があるということである。「やる(あげる)」等は授受の対象である事物が当事者にとって「好ましい」ものであるという意味を表す(益岡2001)。 ・受益の表現とは、人が動作・出来事から利益(好ましい結果)を受けることを表すものという(益岡・田窪2011)。 ・「〜てもらう」の恩恵性とは「恩恵・利益」という形で、話し手のために人がある行為をし、それによって、話し手がメリット、利益、恩恵を受けるという意味である(ムニンタラウォン2008)。 ⇒「恩恵性」というのは人(当事者)にとってメリット、好ましいものだと言える。

  5. 研究の背景 (4)a.私は鈴木さんに答えを教えてあげた。 b.鈴木さんは私に答えを教えてくれた。 c.私は鈴木さんに答えを教えてもらった。 (益岡・田窪2011より) ・他人が話し手にとって恩恵となる行為をした場合には「てくれる」をつける必要がある(庵2001)。 (5)a.母は私に本を{*読んだ/読んでくれた}。 b.太郎は私のために料理を{??作った/作ってくれた}。 (庵2012より)

  6. 研究の背景 ・日本語では、日常的文脈で恩恵的意味素性の側面で、中性的な「与える」「受け取る」はあまり好まれず、「花子は太郎に本をやった/あげた」というように恩恵の方向性および目下/目上関係に関する素性を含んだ表現をとらざるを得ない(橋元2001)。 ・日本語学習者は、授受表現を使用すべきときに使用せず落としてしまい、使用すべきでないときに使用してしまう(荒巻2003、守屋 2002)。

  7. 研究の背景  カンボジア人日本語学習者が次のような間違いをよく起こした。 (6) A「すてきなかばんだね。どこで買ったの?」 B「友達がアメリカで?買ってきました。」 (7)*太郎さん、本を買ってありがとうございます。 ・(6)と(7)から見ると、学習者が間違いを起こしたのは視点制約・方向性が理解できないというより、恩恵性の意味が理解できないから、授受動詞を使用しなかったのではないか。 ⇒授受表現の習得に影響を与える要因は視点制約だけではなく、恩恵性も重要な要因だと考えられる。

  8. 日本語とクメール語の授受表現の対照  ☆日本語の授受表現の本動詞に対応するクメール語 (8) a. 私は父に時計をあげた。 b. 父は私に時計をくれた。 c. 私は父に時計をもらった。 (9) a. khñuṃ pān 'oy nāḷikā aubuk 私   過去を表す助動詞与える時計父 b. aubuk pān 'oynāḷikā khñuṃ 父  過去を表す助動詞与える 時計 私 c. khñuṃ pān daʹdual nāḷikā bi aubuk 私過去を表す助動詞受け取る 時計から  父 ⇒日本語の授受本動詞「あげる・くれる」に対応するクメール語は「'oy(与える) 」のみであり、区別がない。「もらう」に対応するクメール語は「daʹdual(受け取る)]」になる。

  9. 日本語とクメール語の授受表現の対照  ☆日本語の補助動詞に対応するクメール語 (10) A.私は父に時計を買ってあげた。 b.父は私に時計を買ってくれた。 c.khñuṃ pān diñnāḷikā 'oyaubuk 私過去を表す助動詞買う 時計 与える父 d.aubuk pān diñnāḷikā 'oykhñuṃ 父過去を表す助動詞買う時計 与える 私 (11) a. 私は父に時計を買ってもらった。 b. (「てもらう」に対応するクメール語はない) ・〜てあげる・くれる: 「V+〜+'oy 」 ・〜てもらう: ない(その代わりに、「〜てくれる」に対応するクメール語が使われる(坂本1989)。)  → 日本語の授受補助動詞「~てあげる・くれる・もらう」に対応するクメール語は「V+〜+ 'oy 」のみである。

  10. 日本語とクメール語の授受表現の対照 ☆恩恵性について (12)a. hāṇāku pān diñ nāḷikā 'oy thār"o 花子  過去を表す助動詞買う 時計  与える太郎 b. hāṇāku pānpangrianbhāsā'ānggles'oythār"o 花子  過去を表す助動詞教える 英語与える太郎 (13)a. khñuṃ dau sālā ṭoempī gât 私 行く  学校 ために 彼 (彼のために学校へ行ってあげた。) b. ‘a’gun ṭael pān diñ nāḷikā 'oy khñuṃ ​ありがとう(修飾)過去を表す助動詞 買う 時計  与える私 (時計を買ってくれてありがとう。) ⇒クメール語では恩恵性を表すのに「ṭoempī(ために)」「 'a'gun (ありがとう)」の他に「juay(助ける)」などの言葉が使われる。このように、クメール語の授受表現は単独では恩恵を含意せず、恩恵を表すためには何らかの言葉を共起させるようである

  11. 先行研究 稲熊(2004) ・韓国人学習者:64人 ・授受表現の「ウチ」・「ソト」関係を調査した。 ・結果 ➡「もらう」より「〜てもらう」の平均点が有意に低かったということで、母語に存在しない用法の習得が困難である ➡「くれる」系の表現よりも、「〜てもらう」「〜ていただく」のほうが習得が、より困難である

  12. 先行研究 守屋(2002) ・上級レベルの中国語母語話者と中級レベルの韓国語母語話者:218名 ・受益の結束機能や、目上に対する依頼、受益確認・表明などにおける授受動詞と尊敬語との使い分けを中心とした ・結果 ➡目上の行為が話し手に向けられた場合でも、過剰に一般化する傾向がある (14)(1と2を省略する) 「先生、昨日の原稿、もう3(お読みになりましたか/読んでいただけましたか)」

  13. 先行研究 ➡奉仕の表現が敬意につながると誤って一般化したため、日本語と逆に目上の聞き手に対して与益者にたつことを積極的に表明する傾向 ➡同時に,受益者にたつことが謙譲表現につながるという理解が十分でない傾向 ➡母語の干渉によるところも大きい (13)[忙しそうな先生に] 忙しそうですね。(お手伝いしてあげましょう/手伝ってほしいですか/手伝いましょうか)。 ⇒ 授受表現の「恩恵性」の意味・使い方の理解が不十分で、学習者が授受表現を使用すべきところに使用せず、使用すべきでないところに使用してしまった

  14. 先行研究 荒巻(2003) ・日本語学習者77名と日本語母語話者41名 ・学習者の、授受表現を使って文法的に正しい文を構成・形成する能力(授受文形成能力)と場面に応じて授受表現を使用すべきかどうか適切に判断する能力(場面判断能力)が一致するかどうかを検証 ・結果 ➡場面判断能力の高さは授受文形成能力の高さと一致しない ➡授受表現の適切な使用に係る誤りに対しては、文法的に正しい授受文の作成を指導するだけでなく、場面判断能力が身に付くような指導方法が必要

  15. 問題の所在  守屋(2002) ・授受動詞を尊敬語と比較し、受益の意味だけではなく、依頼や表明などの意味の観点からも観察した。それは、受益の意味の使い方に影響を与え、受益の意味の使い方を十分に考察できていないと考えられる。 ・学習者のレベルが統一されなかった ・中級と上級の日本語学習者だけを対象にしたが、初級の学習者を対象にしなかった。

  16. 問題の所在 荒巻(2003) ・学習者は、対象となるものが存在する場合は、授受表現を使用できるが、対象となるものが存在しない場合は、授受表現を使用できないということが分かった。日本語学習者は恩恵の意味が理解できないから、実際の場面で恩恵の意味が使えないのではないか ・学習者のレベルが統一されなかった ・問題数はかなり限られている

  17. 研究目的と研究課題 ・母語に存在しない用法の習得が困難である(稲熊2004) ・母語の干渉により、過剰に一般化する傾向がある(守屋2002) ・学習者は授受表現文の判断できるが、実際の場面では使用できないということが分かった(荒巻2003)。学習者は恩恵の意味が十分に理解できないのではないかと考えられる。 ・守屋(2002)からも、授受表現の恩恵の意味・使い方の理解が不十分で、学習者が授受表現を使用すべきところに使用せず、使用すべきでないところに使用してしまったということがわかった。 ⇒ 授受表現の恩恵性の習得を検討する必要だと考えられる。

  18. 研究目的と研究課題 本研究では日本人母語話者と比較し、カンボジア人日本語学習者の日本語の授受表現の恩恵の使用状況を観察し、母語の影響があるかどうかを検討する。また、中級と上級レベルの学習者だけではなく、初級レベルの学習者からも検討することを目的とし、以下の研究課題を設定した。 課題1)恩恵性が日本語の授受表現の習得に影響を与えるかどうかを検討する。 課題2)日本語の授受表現の恩恵性の習得に母語の影響があるかどうかを検討する。

  19. 今後の課題 1)文献研究を基に、恩恵の習得状況を明らかにできる質問紙を作成する。 2)対象者を選ぶ。 ・日本語母語話者、カンボジア日本語学習者 ・信頼できる分析結果が得られるように、一定の人数を集める ・対象者のレベルを分けるためのテストを検討する 3)分析方法を検討する 4)データ収集方法を検討する 5)データを収集する

  20. 参考文献 久野暲(1978)『談話の文法』大修館書店 坂本恭章(1989)『カンボジア語入門』大学書林 益岡隆志 (2001)「日本語における授受動詞と恩恵性」『日本語学』4: 26-32 橋本良明(2001)「授受表現の語用論」『言語』30:46-51 守屋三千代(2002)「日本語の授受動詞と受益性〜対照的な観点から〜」『日本語日本文学』1-22 荒巻朋子(2003)「授受文形成能力と場面判断能力の関係―質問紙調査による授受表現の誤用分析から」『日本語教育』117号:43−52 稲熊美保(2004)「韓国人日本語学習者の授受表現の習得について―「もらう」系と「くれる」系を中心に―」『国際開発研究フォーラム』26:13−26 益岡隆志・田窪行則(2011)『基礎日本語文法』改訂版、くろしお出版 庵功雄(2012)『新しい日本語学入門』第2版、スリーエーネットワーク ムニンタラウォン・シリワン(2008)「「〜てもらう」表現とタイ語における強制性」『日本語・日本文化、67−87

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