平成２０年度エンジェル税制改正の概要について

平成２０年度エンジェル税制改正の概要について平成２０年度エンジェル税制改正の概要について経済産業省　企業行動課長柳瀬　唯夫

１．　ベンチャー企業をとりまく現状とエンジェル税制拡充の必要性１．　ベンチャー企業をとりまく現状とエンジェル税制拡充の必要性

ベンチャー企業創出の必要性 • ビジネスウィーク誌がまとめた「世界のイノベーション企業トップ２５社」のうち、米国の企業は１６社、日本の企業は３社。 • トップ２５に選ばれた米国の企業１６社のうち９社は１９７０年代以降に設立された新興企業。一方で、日本の企業で選ばれたのはトヨタ、ソニー、ホンダといずれも１９３０～４０年代の企業。 • 我が国もイノベーティブな企業の新陳代謝が必要であり、そのためにも中小・ベンチャー企業の創出を促す必要がある。

開業率・企業数の低迷が続く現状 • 開業率が廃業率を下回る状況が続いており、企業数の減少には歯止めがかかっていない。開廃業率の推移企業数の推移資料：総務省「事業所・企業統計調査」資料：総務省「事業所・企業統計調査」再編加工（注）1.1991年までは「事業所統計調査」、1994年は「事業所名簿整備調査」として行われた。 2. 中小企業の範囲は以下の通り　　　　・1996年以前は常用雇用者300人以下（卸売業は100人以下、小売業、飲食店、サービス業は50人以下）、又は資本金1億円以下（卸売業は 3,000万円以下、小売業、飲食店、サービス業は1,000万円以下）　　　　・1999年以降は常用雇用者300人以下（卸売業、サービス業は100人以下、小売業、飲食店は50人以下）、又は資本金3億円以下（卸売業は1 億円以下、小売業、飲食店、サービス業は5,000万円以下）の企業

中小・ベンチャー企業への投資環境の整備の必要性中小・ベンチャー企業への投資環境の整備の必要性 • 我が国は諸外国に比べ開業率が低い。また、創業時には「資金調達」が最も重要な問題であり、エンジェル税制を拡充することにより、投資家から中小・ベンチャー企業への出資を行いやすい環境を整備する必要がある。創業時の障害各国の開業率の比較％（出所）「中小企業白書」「アメリカ中小企業白書」「ヨーロッパ中小企業白書」より抜粋（出所）創業・ベンチャー国民フォーラム調査（平成１７年３月）

外部環境（株式市場）に左右されるエンジェル税制外部環境（株式市場）に左右されるエンジェル税制 • エンジェル税制は創設以来、数度の改正を重ね、順調に増加してきていたものの、昨年度は年間投資額約１３億円と平成１７年度と比して半減。 • 投資時点の優遇措置（投資額を他の株式譲渡益から控除）を創設した平成１５年度以降、利用実績は株式市場の上昇・下落に連動。これは、現行制度では株式売却によって利益を出した人しか、ベンチャー投資時点の税制優遇は受けられないことによるものと推察される。

エンジェル税制拡充（所得控除制度創設）の必要性エンジェル税制拡充（所得控除制度創設）の必要性 • ベンチャー投資はリスクが高く、強い政策インセンティブが必要。（この１０年間でエンジェル税制利用企業１１６社（のべ投資家数３，０３４人）のうち２社（投資家数４４人）しか上場できていない。） • 現行制度では、株式売却によって利益を出した人しか、ベンチャー投資時点の税制優遇は受けられない。すなわち、 • ①株式投資をしていない普通の人が税制優遇は受けられない。 • ②株式投資をしている人も、税制優遇が株価水準に左右される。 • 所得控除（投資額をその年の総所得金額から控除※詳細後述）を導入すれば、 • ①株式投資をしていない人も、皆、税制優遇の対象となる。 • ②株式投資している人にも、株価水準に関係なく税制優遇が行われる。 • また、イギリス、フランス、台湾でも所得控除制度と同様の効果のある税額控除方式（韓国では所得控除方式）が導入されており、ベンチャー先進国米国に追いつくためにも、日本も当該制度の導入が必要。

２．　エンジェル税制改正の概要と効果

現行のエンジェル税制概要 優遇措置① 投資額をその年の他の株式譲渡益から控除（繰延）（恒久措置）投資時点投資家直接投資（投資組合経由を含む）認定投資事業組合経由での投資証券会社経由（ｸﾞﾘｰﾝｼｰﾄｴﾏｰｼﾞﾝｸﾞ銘柄）ベンチャー企業株式譲渡益発生株式売却損発生売却時点優遇措置② 譲渡益を１／２に圧縮して課税（平成２１年３月末迄）優遇措置③ 損失を翌年以降３年間の繰越控除（恒久措置） ※個人投資家が金銭の払込によりベンチャー企業の株式を　取得した場合が対象。（譲渡により株式を取得した場合は対象外）

エンジェル税制改正の概要（所得控除制度の創設）エンジェル税制改正の概要（所得控除制度の創設）抜本拡充現行制度（エンジェル税制）平成２０年度～（所得控除制度を追加）優遇措置優遇措置（投資家が以下のＡとＢの優遇措置のいずれかを選択）（１）投資時点投資額をその年の他の株式譲渡益から控除（２）売却時点（※１） ①利益が出た時　　譲渡益を１／２に圧縮して課税 ②損失が出た時　　損失を翌年以降３年間の繰越控除（１）投資時点（出資額－５千円）をその年の総所得金額等から控除 ※上限は、総所得金額×４０％と１，０００万円のいずれか低い方。（２）売却時点（①利益が出た時の優遇措置は廃止）（※２）　②損失が出た時　損失を翌年以降３年間の繰越控除・・・・（継続）Ａ ※２：総所得金額から控除した金額分だけ取得価額を引き下げて計算。 ※１：株式譲渡益から控除した投資額分だけ取得価額を引き下げて計算。（１）投資時点　　投資額をその年の他の株式譲渡益から控除・・・・（継続）（２）売却時点（①利益が出た時の優遇措置は廃止）（※１）　②損失が出た時　損失を翌年以降３年間の繰越控除・・・・（継続）Ｂ ※１：株式譲渡益から控除した投資額分だけ取得価額を引き下げて計算。認定ベンチャーキャピタルファンドの投資先 ※ についても個別案件毎に要件を満たせば優遇措置Ａも適用可）。グリーンシートエマージング銘柄の企業

所得控除創設による投資インセンティブ（具体的計算例）所得控除創設による投資インセンティブ（具体的計算例）投資家Ｘさん総所得金額（給与のみ） 2,500万円ベンチャーへの投資額 1,000万円 ※給与所得以外の所得は無いものとする今回の所得控除制度　　　　を利用する場合現行制度の場合（所得控除を　　　利用できない）基礎控除 38万円給与所得控除 295万円（給与収入金額×5％＋170万円）ベンチャーへの投資による所得控除（出資額1,000万円－5千円） 999.5万円基礎控除 38万円給与所得控除 295万円（給与収入金額×5％＋170万円） ①所得控除 ※いずれの場合も配偶者控除等は考慮しない ②課税所得総所得金額－所得控除の合計額 2,167万円総所得金額－所得控除の合計額 1,167.5万円課税所得2,167万円に対する納税額は下記表より約587万円 ③納税額課税所得1,167.5万円に対する納税額は下記表より約232万円課税所得金額に対する税率（各区分における最高納税額） 195万円以下：5％（9.75万円） 195万円超～330万円以下：10％（13.5万円） 330万円超～695万円以下：20％(73万円) 695万円超～900万円以下：23％（47.15万円） 900万円超～1,800万円以下：33％（297万円） 1,800万円超：40％　以上より、所得控除利用により約３５５万円の税額が控除される。

投資時点における所得控除制度と現行制度の比較投資時点における所得控除制度と現行制度の比較 ①現行の投資時点の優遇措置・・・投資額をその年の他の株式譲渡益から控除（繰延） ②新たに追加された優遇措置（所得控除）・・・（出資額－５千円）をその年の総所得金額等から控除 ※上限は、総所得金額×４０％と１，０００万円のいずれか低い方。投資家は①、②のいずれかの優遇措置を選択可能。 ①現行制度利用の場合 ②所得控除利用の場合投資家Ａさん 399.5万円を総所得金額等から控除 ※総所得1000万円×40%－5千円総所得金額　　　　　 1,000万円ベンチャーへの投資額　　500万円他の株式譲渡益　　　　　100万円 100万円を株式譲渡益から控除所得控除投資家Ｂさん 199.5万円を総所得金額等から控除 ※投資額200万円－5千円所得控除総所得金額　　　　　 700万円ベンチャーへの投資額　　200万円他の株式譲渡益　　　　　なし利用不可投資家Ｃさん現行制度も引き続き利用可能 199.5万円を総所得金額等から控除 ※総所得500万円×40%－5千円３００万円を株式譲渡益から控除総所得金額　　　　　　　500万円ベンチャーへの投資額　　300万円他の株式譲渡益　　　　　400万円

対象となるベンチャー企業 【現行のエンジェル税制の対象】創業（設立）１０年未満の、未上場の中小企業者（風俗営業等に該当する事業を行う会社、大企業の子会社を除く）のうち以下の要件を満たす企業として経済産業大臣（各地の経済産業局で受付）の確認を受けたもの（１）以下のイ、ロ要件のいずれかを満たすこと外部（特定の株主グループ以外）からの投資を1/6以上取り入れている会社であること（２）【今回の所得控除の対象】上記企業のうち、設立３年未満で前年、前々年の営業キャッシュ・フローが赤字の企業

幅広いベンチャー企業への出資が所得控除の対象幅広いベンチャー企業への出資が所得控除の対象以下の、いずれの想定ベンチャー企業も所得控除制度の対象企業となる。想定ベンチャー企業Ａ想定ベンチャー企業Ｂ特定地方の名産を扱うショッピングサイトを運営。ゆくゆくは日本各地の名産を取り扱う一大ショッピングサイトの運営を目指し資金調達を検討中海産物の新たな養殖方法を研究・実用化。ゆくゆくは様々な海産物を取り扱う畜養業者を目指し資金調達を検討中会社プロフィール会社プロフィール設立１年目資本金：３００万円（うち友人が５０万円出資）従業員数：社長含め２人（２人で商品企画、wab制作を担当）売上高及び試験研究費等は設立１年目の為無し。事業計画書有り。設立３年目資本金：１，５００万円（うち友人が３００万円を出資）従業員数：３０人第２期の売上高：３，０００万円　第２期の試験研究費等：１５０万円営業活動から得られる現金収支（以下、営業ＣＦ）は設立以来赤字エンジェル税制（所得控除）の対象となるか？エンジェル税制（所得控除）の対象となるか？創業（設立）３年未満の、未上場の中小企業者で継続して営業キャッシュフローが赤字であること（設立１年未満の企業は事業計画書を有すること）要件①：要件①：創業（設立）３年未満の、未上場の中小企業者で継続して営業キャッシュフローが赤字であること資本金３００万円、事業計画書も有るので・・・要件クリア資本金１，５００万円、創業来営業ＣＦは赤字なので・・・要件クリア要件②：研究者又は開発者（技術開発、商品企画、マーケティングを含む）が２人以上かつ全従業者の１０％以上（又は右記）要件②：売上高試験研究費等の割合が３％超であること又は売上高成長率が２５％超であること従業員２人、開発者２人なので・・・要件クリア売上高試験研究費等の割合が５％なので・・・要件クリア要件③：外部からの投資を1/6以上取り入れている会社であること要件③：外部からの投資を1/6以上取り入れている会社であること外部から資本を１／６受け入れているので・・・要件クリア外部から資本を１／５受け入れているので・・・要件クリア

エンジェル税制申請から確定申告までの流れ エンジェル税制の対象ベンチャー企業であることの確認ステップ１申請時の必要書類手続きに必要な期間と方法 • 要件に係らず必要となる書類 • 申請書 • 定款 • 登記事項証明書 • 株主名簿 • 従業員数を証するもの　　　　　（組織図等） • 申請はいつでも可 • 確認期間は原則１ヶ月以内も、通常の場合は２週間程度で確認可能 • 郵送による申請も可能 • 事前相談も可能 • 対象要件により必要となる書類 • 直前期のＢＳ・ＰＬ等 • 確定申告書別表二の写し • 確定申告書別表一（一）と法人事業概況説明書の写し • 事業計画書 • 法人設立届出書ベンチャー企業 ①申請 ②確認各地域の経済産業局エンジェル税制の対象企業と確認されると、経済産業大臣の確認書を交付ベンチャー企業から投資家に確定申告時に必要となる書類の交付ステップ２投資家へ交付する時期投資家へ交付する書類 • 経済産業大臣の確認書 • 投資契約書 • 投資家が一定の個人に該当しないこと（注）の確認書（ベンチャー企業作成） • 投資家が投資時点の優遇措置を利用する場合、投資した年の翌年に確定申告する必要があることから、確認を受けた場合速やかに投資家に交付することが望ましいベンチャー企業必要書類の交付と投資契約の締結投資家注：当該ベンチャー企業が同族会社で、かつ投資家が当該企業の役員の場合には、その投資家が上位３株主グループ（株主の親族等を含む）に属さない事。また、ベンチャー企業の設立に際し、当該企業に自らが営んでいた事業の全部を承継させた個人（その親族等を含む）でないこと。投資家が税務署にて確定申告ステップ３確定申告時に必要な書類 ※確定申告書等以外の必要書類 • 経済産業大臣の確認書 • 投資契約書の写し • 投資家が一定の個人に該当しないことの確認書（ベンチャー企業作成）投資家税務署確定申告

相談窓口 • 経済産業省経済産業政策局　　　　　　新規産業室　 03-3501-1569 • 北海道北海道経済産業局　　　　　新規事業課 011-700-2251 • 東　　　北東北経済産業局　　　　　　産業支援課　 022-263-1167 • 関　　　東関東経済産業局　　　　　　新規事業課　 048-600-0276 • 中　　　部中部経済産業局　　　　　　新規事業課　 052-951-2761 • 近　　　畿近畿経済産業局　　　　　　創業・経営支援課 06-6966-6014 • 中　　　国中国経済産業局　　　　　　新事業支援室　 082-224-5658 • 　　　国四国経済産業局　　　　　　新規事業課 087-811-8521 • 九　　　州九州経済産業局　　　　　　新規事業課　 092-482-5438 • 沖　　　縄沖縄総合事務局経済産業部　地域経済課　 098-866-0067 • 経済産業省のＨＰ http://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/index.html 制度概要、申請手続き等については、経済産業省新規産業室、最寄りの経済産業局の相談窓口もしくは税理士にお気軽にご相談下さい。

組合経由の投資もエンジェル税制（所得控除制度）の対象組合経由の投資もエンジェル税制（所得控除制度）の対象投資家αさん投資家βさん投資家γさん組合への出資額：500万円出資割合は50％組合への出資額：300万円出資割合は30％組合への出資額：200万円出資割合は20％出資総額：1,000万円民法組合　又は投資事業有限責任組合 300万円投資 500万円投資 200万円投資ベンチャー企業Ａベンチャー企業Ｂベンチャー企業Ｃ個別企業毎にエンジェル税制（所得控除）の対象となるか確認結果結果結果 ○ × × エンジェル税制（所得控除）の対象ベンチャー企業Ａがエンジェル税制の確認を受けた場合の所得控除の対象額投資家α：組合からの投資額300万円×組合への出資割合50％＝150万円分の出資額が所得控除の対象投資家β：組合からの投資額300万円×組合への出資割合30％＝90万円分の出資額が所得控除の対象投資家γ：組合からの投資額300万円×組合への出資割合20％＝60万円分の出資額が所得控除の対象

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