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サプライチェーンの 持続可能性 継続的改善のための実践的ガイド

サプライチェーンの 持続可能性 継続的改善のための実践的ガイド. 国連 グローバル・コンパクト. ii  サプライチェーンの持続可能性.

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サプライチェーンの 持続可能性 継続的改善のための実践的ガイド

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  1. サプライチェーンの 持続可能性 継続的改善のための実践的ガイド 国連グローバル・コンパクト

  2. ii サプライチェーンの持続可能性 2000年に開始した国連グローバル・コンパクトは、企業が持続可能性と責任ある行動にコミットするための政策の基盤となるものであり、実践的な枠組みとなるものである。国連グローバル・コンパクトは、マルチ・ステークホルダーによるリーダーシップ・イニシアティブとして、企業の業務と戦略を、人権、労働、環境及び腐敗防止の分野で国際的に認められた10原則に一致させることで、より幅広い国連の目標をサポートする行動を起こすことを促そうとするものである。国連グローバル・コンパクトは、135カ国以上において8,000団体以上の署名者を得た、世界最大の自発的な企業の責任イニシアティブである。http://www.unglobalcompact.org 1992年以来、CSRのリーダーであるBSR(Business for Social Responsibility)は、コンサルティング、研究及び異なる分野間における協働を通じて、持続可能なビジネス戦略を開発するために、250以上の加盟企業の世界的なネットワークと協働している。BSRは、アジア、ヨーロッパと北アメリカに6つのオフィスを有しており、グローバル企業を公正で持続可能な世界の構築に向けて導くために、環境、人権、経済発展とガバナンス及びアカウンタビリティ(説明責任)についての専門知識を駆使して取り組んでいる。http://www.bsr.org 断り書き この出版物にある企業の事例は、学習を目的としており、個々の企業を推薦するものではない。 著作権 この出版物の内容は著作権で保護されている。 国連グローバル・コンパクトは、教育的な目的のためにこの内容の普及を奨励する。 この出版物の内容は、国連グローバル・コンパクトとBSRに明瞭に帰属するものであり、非営利目的に限定されるのであれば、事前の許可なしで自由に使っても構わない。 Ⓒ 2010、国連グローバル・コンパクト・オフィスとBSR このガイドは、コディ・シスコ(Cody Sisco) 、ブライズ・チョーン(Blythe Chorn)とペーデル・マイケル・プルーザン-ヨーゲンセン(Peder Michael Pruzan-Jorgensen)が、セシリー・ハルトマン(CecilieHultmann) 、国連グローバル・コンパクト・オフィスのスタッフ、BSRスタッフと5ページのリストにある国連グローバル・コンパクト諮問グループメンバーからの重要な編集上の意見を得て執筆したものである。 デザイナー:メガン・ラーソン(Megan Larson) グローバル・コンパクト・オフィスとBSRは、このガイダンスの作成のための下記の組織による多大な支援に対して感謝する。 【邦訳注】 本邦訳は、国連グローバル・コンパクト・オフィスの許可を得て環境経営学会サプライチェーン・マネジメント研究委員会が作成したものである。原文(英文)をできる限り正確に訳したが、日本語として理解しやすいよう意訳したところもある。このため、本ガイドを適用するに当たっては、原文を参照していただきたい。 環境経営学会サプライチェーン・マネジメント研究委員会 邦訳者:宮崎正浩(第1章、第8章)、岡本享二(第2章)、後藤敏彦(第3章)、坂本有希(第4章)、籾井まり(第5章)、九里徳泰(第6章)、宮本武(第7章)、 上記全員と、川村雅彦、鶴田佳史、菱山隆二、松田陽子、村上亘で全文レビューを行った。

  3. 1 目次 序文2 ジョージ・ケル、国連グローバル・コンパクト・オフィスエグゼクティブ・ディレクター アロン・クレイマー、 BSR 理事長兼CEO 要約 サプライチェーンの持続可能性への実践的なステップ5 第1章序章                                                          7 第2章 サプライチェーンの持続可能性に取り組むにあたって13 ビジネスとして取り組むことの意義を明らかにすること 外部景観を理解すること ビジョンを確立すること 第3章 サプライチェーンにおける持続可能性の期待事項を明確にすること21 行動規範の概要 行動規範を採用若しくは規定すること 行動規範を使用すること 第4章 適用範囲を決める 25 サプライチェーンのマッピング サプライチェーンの細分化 第5章 サプライヤーとの関係構築33 コミュニケーションの方法選択 モニタリングと監査 是正とサプライヤーのキャパシティ・ビルディング 第6章 役割と責任の決定43 組織内部での連携 ガバナンスと監督:経営幹部によるリーダーシップと取締役会 ビジネス・マネジャー間の部門横断的調整 調達専門担当者による実行 第7章 産業界の協働とマルチ・ステークホルダー・パートナーシッップ51 産業界の協働の意味するところ 産業界における協働に関する機会とリスク マルチ・ステークホルダーとのパートナーシッップ 第8章 目標設定・パフォーマンス監視・情報発信        59 目標設定のプロセス 影響に関する目標 サプライヤーのパフォーマンスに関する目標 内部のパフォーマンスに関する目標 測定のプロセスと実施 進展を伝えて報告すること 謝辞64

  4. 2 サプライチェーンの持続可能性 序文 責任あるビジネス行動へのコミットメントをバリューチェーン(子会社からサプライヤー)へ拡大する企業が益々増えてきている。そうするのは、サプライチェーンに潜んでいる固有の社会的・環境的リスクとガバナンスの課題のためだけでなく、サプライチェーンの持続可能性がもたらす多くの報酬があるためである。実際のところ、持続可能なサプライチェーン・マネジメントは、企業と社会のための価値と成功を強力に推進する。サプライチェーン・マネジメントは、良好なビジネス行動を世界中に普及させることを通して、より広く受け入れられる市場(inclusive market)形成に貢献し、国連の使命の精神に従って持続可能な開発(sustainable development)を進めるための非常に大きな潜在力を持っている。 今日、世界中の国連グローバル・コンパクトの参加者は、10原則をサプライチェーンに適用することによってリーダーシップを発揮している。しかし、グローバル・コンパクトの4分野(人権、労働、環境、腐敗防止)のすべてを包含するサプライチェーン・プログラムを作成することは、多くの企業にとっては気が遠くなるような課題である。  「サプライチェーンの持続可能性:継続的改善のための実践ガイド」は、BSRとの協働で作成したものであり、国連グローバル・コンパクトの価値と原則に基づき持続可能なサプライチェーン・プログラムをいかに作成するかについて実際的なガイドを提供することによって、企業がこれらの課題を克服することを手助けするものである。このガイドは、多数の企業のグッド・プラクティスを特徴づけており、企業が継続的なパフォーマンスの改善をもたらす行動の優先事項を決定する際に役立つ。 我々は、この出版物によって、より多くの企業がより持続可能なサプライチェーンに向けて取り組みを始めることを奨励し、それによって目に見える永続的な便益があらゆる場所における企業、環境及び社会にもたらされることを期待している。 ジョージ・ケル(Georg Kell) 国連グローバル・コンパクト・オフィス エグゼクティブ・ディレクター 

  5. 3 グローバル・コンパクトの10原則が10周年を迎え、原則を現実のものとするためには21世紀における地球規模のビジネスを定義するともいえるサプライチェーンにおける協働が必要であることが、これまで以上に明らかとなった。多くの企業が環境と社会に与える最大の影響は、そのサプライチェーンにおいて起きており、それらのネットワークがこの25年間で規模と複雑さを増していくにつれ、 企業が人権を促進し、労働環境を改善し、環境を保護し、倫理的なビジネス行動を支援する機会もまた増えている。購入者とサプライヤーが協働することで、企業行動の基本となる基準が遵守されるだけではなく、ビジネスが世界中の社会や環境に与える影響を改善することができる。 BSRは、企業が地球規模のサプライチェーンに国連グローバル・コンパクトの10原則を適用することを奨励した記念の日に、このガイドを作成できたことを誇りに思う。BSRは、ガイド作成において広範なサプライチェーンを通じて公正な労働条件と良好な環境保全行動を統合する方法に関する幅広い知見を提供した。加盟企業及びそのサプライチェーンの地球規模でのネットワークとの協働のもと、我々は世界30か国以上で、多くの産業分野におけるサプライチェーンに、環境・社会・ガバナンスの原則を組み込むべく作業した。世界中の国連グローバル・コンパクトの署名者の広範なネットワークに参加することは、グローバル・コンパクトの影響力を高める大きな機会となっている。 我々はこのガイドが、以下によって、すべての産業、地域と細分化した市場において公正で持続可能な労働条件を高めるためのきっかけとしての役割を果たすことを希望する。 ・ 持続可能性を中小企業において浸透させること ・重要な社会環境課題に関し、開発途上国の企業とのよりよい関係を生み出すこと ・良好に機能する市場の重要な柱として、良好なガバナンスと企業倫理を支援すること このガイドは、企業がサプライチェーンの持続可能性への取り組みを開始し、それを進めるのを支援することを目的としているが、持続可能性の影響を広め、共同して行動するためにも用いられることを願う。BSRは、グローバル・コンパクトと協働できたことを大変誇りに思い、また、グローバル・コンパクトのビジョンがより現実のものとなるよう、今後もグローバル・コンパクトと世界中の署名企業を支援していく所存である。 アーロン・クラマー(Aron Cramer) BSR 理事長兼CEO

  6. 4 サプライチェーンの持続可能性 サプライチェーンの持続可能性に関する 国連グローバル・コンパクト諮問グループ グローバル・コンパクト・オフィスは、グローバル・コンパクトの参加者とステークホルダーによる諮問グループを設置した。諮問グループの役割は、サプライチェーンの持続可能性の問題に関する全体的な戦略とグローバル・コンパクト・オフィスが行った作業に対し、意見を提出し、作成された指針の内容が堅牢で、ビジネスのニーズを考慮したものとなるようにすることである。 グローバル・コンパクトの理事会メンバーである、マッズ・オブリーセン氏が諮問グループの議長を務めた。このガイド作成作業への支援を惜しまなかったオブリーセン氏と諮問グループのすべてのメンバー(下記)に対し、感謝の意を表したい。 ■Mr. Michael Wilhelmer, Manager, Global Procurement Services, ArcelorMittal (Luxembourg) ■Mr. Cody Sisco, Manager, Advisory Services, Business for Social Responsibility (Global) ■Mr. Gustavo Perez Berlanga, Senior Vice President - CSR and Toks University, Cafeterias Toks S.A. de C.V, (Mexico) ■Mr. Juan Antonio Espinosa, Procurement Director, Planning & Control, CEMEX (Mexico) ■Mr. Brian Glazebrook, Senior Manager - Value Chain Social Responsibility, Cisco Systems (USA) ■Dr. BentePretlove, Corporate Advisor - CSR & Sustainable Development, Det Norske Veritas (Norway) ■Ms. Vimal L Kumar, Head - Corporate Responsibility, DiGi Telecommunications SdnBhd (Malaysia) ■Ms. Tammy Rodriguez, Director of Corporate Responsibility, Esquel Group of Companies (China) ■Ms. Monique Oxender, Global Manager - Supply Chain Sustainability, Ford Motor Company (USA) ■Ms. Isabel Garro Hernandez, Executive Director, Global Compact Local Network Spain (Spain) ■Ms. Claudine Musitelli, Director, Global Social Compliance Program (GSCP) (Global) ■Mr. Paolo Pompilio, Diretor de RelacoesCorporativas e RSA, GrupoPao de Acucar - Companhia Brasileira de Distribuicao (Brazil) ■Ms. Zoe McMahon, Supply Chain Social and Environmental Responsibility Manager, Hewlett-Pack ard (USA) ■Mr. Brian Larnerd, Senior Manager Corporate Social Responsibility & Chief Executive for the Americas Office, Hitachi, Ltd. (Japan) ■ Dr. In-mo Cheong, General Manager Environment Strategy Planning, Huyndai Motor Company (Republic of Korea) ■Mr. Greg Priest, Head of IWAY Compliance and Monitoring, IKEA (Sweden) ■Mr. Javier ChercolesBlazquez, CSR Global Director, Inditex, Industrias de DisenoTextil, S.A. (Spain) ■Mr. SandeepDadlani, Vice President - Retail, CPG & Logistics, Infosys Technologies Ltd (India) ■Ms. Trude Andersen, Head of CSR, Innovation Norway (Norway) ■Mr. Robert Jenkins, CEO, Integrated Contract and Supply Solutions - ISCS (United Arab Emirates) ■Mr. Jan-Willem Scheijgrond, Senior Director - Health, Safety and Environment, Koninklijke Philips Electronics N.V. (Netherlands) ■Ms. BerozGazdar, Vice President - Infrastructure Development Sector, Mahindra & Mahindra Limited (India) ■Ms. Hilary Parsons, Public Affairs Manager, Supply Chain, Nestle S.A. (Switzerland) ■Mr. Mika Kiiskinen, Senior Manager, Social & Ethical Issues Management, Nokia Corporation (Finland) ■ Dr. Marcia Balisciano Director, Corporate Responsibility, Reed Elsevier Group plc (UK) ■Ms. Eileen Kaufman, Executive Director, Social Accountability International (SAI) (Global) ■Ms. Rachelle Jackson Director, Research & Development, STR Responsible Sourcing (USA) ■Mr. Koichi Kaneda, Senior Manager, CSR and Corporate Branding, Takeda Pharmaceutical Company Limited (Japan) ■Mr. AnantNadkarni, Vice President - Group Corporate Sustainability, Tata Council for Community Initiatives (TCCI) (India) ■Mr. Stein Hansen, Senior Vice President, Business Assurance, Telenor Group (Norway) ■Mr. Alexander Seidler, Director, UBS AG (Switzerland) ■Mr. Willem-Jan Laan, Director Global External Affairs, Unilever (UK) ■ Dr. Gerhard Pratorius, Head of Coordination CSR and Sustainability, Volkswagen AG (Germany)

  7. 5 要約: サプライチェーンの持続可能性への実践的なステップ このガイドが対象にしているのは、大きな購買活動を行っており、そのサプライチェーン・マネジメントの戦略と行動に持続可能性を統合する方法を学びたいと考えている企業である。 サプライチェーンの持続可能性は、企業の責任の重要な構成要素として益々認識されるようになっている。サプライチェーンの社会的・環境的・経済的な影響を管理し、腐敗を防止することは、正しいことであると同時に、経営上理にかなう事である。しかし、サプライチェーンは、常に進化し続ける市場と様々な関係性で構成されるものである。この複雑な領域をうまく切り抜けるため、我々は、サプライチェーンの持続可能性に向けて作業するための基礎として国連グローバル・コンパクトの原則を用いつつ、基礎となる定義や、企業が前進のために講じうる実践的なステップを提供する。 サプライチェーンの持続可能性とは何か? サプライチェーンの持続可能性とは、製品とサービスのライフサイクルを通じて、環境的・社会的・経済的影響を管理することであり、良好なガバナンスの実行を奨励することである。サプライチェーンの持続可能性の目的は、製品とサービスの市場化に関与するすべてのステークホルダーにとっての長期的な環境的・社会的・経済的の価値を創造し、保護し、高めることである。国連グローバル・コンパクトの原則をサプライチェーンの関係性に統合することによって、企業は企業としての持続可能性を高め、より広い持続可能な開発の目的を促進することができる。 なぜ、サプライチェーンの持続可能性が重要なのか? 企業がサプライチェーンの持続可能性の探求を始めるには、数多くの理由がある。そのうちで第一のものは、法規制のコンプライアンスを確実にし、持続可能なビジネス行動のための国際的な原則を遵守し、かつそれを支持することである。加えて、企業は、社会が期待し、そうすることがビジネスに便益をもたらすものであることから、益々より良好な社会的・経済的・環境的影響をもたらす行動をとるようになってきている。サプライチェーンを通じて、環境的・社会的・経済的パフォーマンスと良好なガバナンスを管理し改善を追求することにより、企業は自らの利益、ステークホルダーの利益、そして大きくは社会の利益のために行動する。 企業はどのようなステップを取ることができるのか? このガイドは、企業がサプライチェーンの持続可能性を達成するために実施することができる実践的なステップの概要を説明し、行動を促すための実例を紹介するものである。以下に要約した推奨ステップは、グローバル・コンパクト・マネジメントモデルに基づいている。このモデルは、戦略と業務においてグローバル・コンパクトを主流化するための継続的改善の柔軟な枠組みである。 下記と本ガイド全体を通じて説明するステップは、非線形なものである。むしろ、これらはより持続可能なサプライチェーンを実現するために企業が取りうる補完的な行動を表している。さらに、サプライチェーンの持続可能性のマネジメントを成功させるためには3つの原則―ガバナンス、透明性、エンゲージメント(関係構築)があり、これらはモデルのすべてのステップにおいて不可欠である。 • コミットする • 外部環境とビジネスを成り立たせている最も重要な要素を理解することによってビジネスとして取り組む意義(business case)を明らかにする(第2章) • サプライチェーンの持続可能性のためのビジョンと目的を確立する(第2章) • サプライチェーンにおける持続可能性に関する期待事項を確立する(第3章) • 評価する • ビジネスの優先順位と影響に基づく取り組みの範囲を決定する(第4章)。 • 定義と実施 • パフォーマンスの改善のためにサプライヤーに期待事項を伝達し、交流する(第5章)。 • 連携を確実にし、内部でフォローアップする(第6章)。 • 協働とパートナーシップを組む(第7章) • 測定とコミュニケーション • 目標に照らしてパフォーマンスを監視し、透明性を確保し、進展を報告する(第8章)

  8. 6 サプライチェーンの持続可能性

  9. 7 第1章 序章 このガイドは、製品の流通業者や消費者または最終処分問題ではなく、上流のビジネス相手、すなわち、サプライヤーとの関係に焦点を当てる。サプライチェーンの下流での影響の焦点は、国連グローバル・コンパクト・オフィスによって将来検討される予定である。 さらに、このガイドは、企業が何を購入するかではなく、企業が誰から購入するのか、どのように製品を調達するのかという問題に焦点を当てる。何を購入するかは、これも、国連グローバル・コンパクト・オフィスの将来の検討課題であろう。 このガイドは、サプライチェーンの持続可能性に関して未経験の企業と経験がある企業の双方を対象に、サプライチェーンを通してグローバル・コンパクトの原則を適用し、持続可能性をビジネスの戦略に統合することを支援するためのものである。 サプライチェーンの持続可能性の定義 今日のグローバル化した経済では、業務をアウトソーシングすることは、責任やリスクが外部に移転されることを意味せず、製品が販売された段階で企業の責任が終わることもまた意味しない。リーディング・カンパニーは、その製品・サービスがライフサイクルを通じて果たす役割を理解している。サプライチェーンの持続可能性マネジメントは、ビジネスの継続性を確保し、事業費を管理し、ブランドの誠実さを維持するための鍵となる。これは、グローバル・コンパクトの原則を実施するための、一つの重要な側面である。 本ガイドにおける定義 「持続可能性」の定義は様々である。このガイドにおいては、グローバル・コンパクトの10原則で対象となっているように、環境、社会(人権と労働)と企業のガバナンスの課題に対処するビジネスの役割を包含するものと定義する。 「サプライチェーンの持続可能性」とは、製品とサービスのライフサイクル全体を通じての、環境、社会と経済の影響を管理することであり、良好なガバナンスの実行を奨励することである。 サプライチェーンの持続可能性の目的は、製品とサービスを市場に出すことに関わるすべてのステークホルダーのために長期の環境的・社会的・経済的な価値を創出し、保護し、高めることである。サプライチェーンの持続可能性を通じ、企業はそのビジネスの長期の存続を可能とし、 社会における地位を確保することができる。 環境的・社会的・経済的な影響は、 サプライチェーンの各段階を通じて存在する。1 1 BSR(Business for Social Responsibility)から引用

  10. 8 サプライチェーンの持続可能性 サプライチェーンの持続可能性と国連グローバル・コンパクトについて グローバル・コンパクトは、参加者に10原則に基づきサプライヤーとの関係を構築し、グローバル・コンパクトに対するコミットメントの一部として持続可能な開発の目的を進め、それによって、地球規模のビジネスコミュニティ全体に良き企業市民としての行動を広めることを奨励している。下の表に示すように、10原則は、サプライチェーンにおける持続可能性に密接に結びついている。 グローバル・コンパクトの10原則とサプライチェーンの持続可能性 10原則サプライチェーンの持続可能性との関係 企業は人権を尊重する責任がある。基本となる責任は、他人の権利を侵害しないことである。加えて、企業は人権の実現を支援し促進する段階的措置を講じることができ、またそうすることにはビジネス上の理由がある。 事務所、工場、農場などや鉱業などの自然資源を採取する現場の労働条件は、特に開発途上国では、しばしば国際的な基準や国内の規制の要求基準よりも顕著に低くなっており、深刻な人権侵害に至る場合がある。企業は、サプライチェーンの中で、雇用の自由選択権、児童の労働からの解放、差別からの解放、組織と団体交渉の自由を含め、国際的な労働基準を維持するよう努力すべきである。 更に、労働者はしばしば、過剰な労働時間、雇用者による待遇の低下や移動の禁止など、上記以外の労働者の権利の侵害に苦しむ。人権侵害に加担しないためには、企業は、サプライチェーンによって影響を受ける労働者やその他の人々の権利(移動の自由、非人間的な扱いからの自由、同一職務同一賃金を受け取る権利、休息と気ばらしをする権利を含む)が侵害されることがないよう努力すべきである。また、安全で健康な労働条件の下で働くというすべての人が有している権利も非常に重要である。 企業は、広範囲での人権(例えば、性の平等や教育や健康へのアクセス)を促進するために、単独であるいはパートナーとの協働で人権(労働条件を含むが、それ以上の)問題の解決を、始めることもできる。 人権 原則1:企業は国際的に宣言されている人権の擁護を支持し、尊重する。 原則2:人権侵害に加担しない。 労働 原則3:組合結成の自由と団体交渉の権利を実効あるものにする。 原則4:あらゆる形態の強制労働を排除する。 原則5:児童労働を実効的に廃止する。 原則6:雇用と職業に関する差別を撤廃する。

  11. 9 環境 原則7:環境問題の予防的なアプローチを支持する。 原則8:環境に関して一層の責任を担うためのイニシアチブをとる。 原則9:環境にやさしい技術の開発と普及を促進する。 サプライチェーンからの環境影響は、特に環境規制が緩く、価格の圧力が顕著で、自然資源が豊富な(又は豊富と見られている)地域では、しばしば深刻である。このような影響には、有害廃棄物、水質汚染、生物多様性の損失、森林減少、生態系への長期の損害、有害な大気排出物、多量の温室効果ガスの排出やエネルギー使用が含まれる。企業は、予防的アプローチを適用し、より大きな環境面の責任とクリーンテクノロジーの利用を促進することによって、サプライヤーと協力し、環境影響を改善すべきである。 サプライヤーに存在する顕著な腐敗のリスクとしては、不正な調達と政府が関わる汚職行為に関与するサプライヤーが挙げられる。このような不正行為の直接的なコストは、製品の品質を含めかなりのものであるが、しばしば、法的責任や企業の評判への損害などの問題に対処するために使われる管理者の時間や経営資源に関連する間接的なコストの方が膨大である。有意義な腐敗防止プログラムを通じてサプライチェーンに関わっていく企業は、製品の品質を改善し、不正とそれに関連するコストを削減し、誠実なビジネス行動によって評判を高め、ビジネス環境を改善し、将来の成長のためのより持続可能なプラットホームを創出することができるのである。 腐敗防止 原則10:強要と贈収賄を含むあらゆる形態の腐敗を防止するために取り組む。 サプライチェーンにおける持続可能な発展の影響について 現在進行中であるビジネス上の関係によって、すべての企業は従業員、サプライヤーと政府への支払を通じて直接的な経済上の影響を与えている。さらに、サプライチェーンを通して、またそれを超えたところで、資金の流れによって間接的にも経済的な影響を与えている。サプライチェーンを経済的により包含するものとする企業は、例えば、雇用を創出し、所得を増加させることによって、さらに経済的発展を支援することができる。経済発展は、社会経済的な発展と環境へ二次的な影響を与えることから、持続可能性の非常に重要な一側面である。

  12. 10 サプライチェーンの持続可能性 国連グローバル・コンパクト:持続可能なサプライチェーンに関する資料 サプライチェーンの持続可能性:オンラインでの評価と学習ツール 顧客が、包括的なサプライチェーン・アプローチの実施の進捗を測定し、ギャップを評価し、課題と成功を共有するための双方向のツール。BSR(Business for Social Responsibility)との協働で策定された。 サプライチェーンの持続可能性ウェブサイト 企業がより持続可能なサプライチェーンを構築することを支援するためのイニシアティブ、資源や、ツールに関する情報を提供し、企業の実施例を記載する。 http://supply-chain.unglobalcompact.org 企業のサプライチェーンにおける人権の促進のための市民社会との協働 企業が人権を促進するためにどのようにサプライヤー、政府及び市民社会と協働できるかに関するグッド・プラクティスのノート 責任ある環境管理に関する資料 サプライチェーンの管理実施のための戦略とガイドを含む、環境マネジメントと持続可能性のための戦略的な政策枠組み サプライチェーン中にある腐敗を防止する:顧客とサプライヤーのためのガイド 腐敗を防止するための、顧客とサプライヤーのための実践的なガイドとツール。これは、国連グローバル・コンパクトの第10回「原則ワーキンググループ」の成果である。 すべての資料は以下のリンクからアクセスすることができる: www.unglobalcompact.org/Issues/supply_chain

  13. 11 このガイドの使い方 このガイドに記述されている包括的アプローチにより、サプライチェーンの持続可能性に関する重要課題および検討事項をグローバル・コンパクトの10原則に即した形で特定する助けとなる。 このガイドは、企業の責任とサプライマネジメントの優先課題と実践について、監視とインプットをする立場にある個人向けに作成されている 。ここに記載したアプローチは、サプライチェーンの持続可能性に詳しくない企業、経験を有している企業どちらにも適用可能である。先進的な実例は「新しい兆し」というタイトルでボックスに明示している。 第2章では、サプライチェーンの持続可能性を目指す事業上の理由の論拠を探索することから始める。また、外部環境への理解と、サプライチェーンの持続可能性に関する企業独自のビジョン確立の重要性を検討する。 第3章では、グローバル・コンパクトの10原則とその他の認識された国際規格で構築されるサプライヤーの行動規範の設計や、その規範の利用方法に関して助言を提供する。 第4章では、サプライチェーン持続可能性プログラムの適用範囲を決定する重要な要素と、サプライヤーの細分化、リスクアセスメント、優先順位付けなどのツールを説明する。 第5章では、サプライチェーンの持続可能性についてサプライヤーとの関係を構築するためのオプションについて説明する。それには、サプライヤーとコミュニケーションを取り、パフォーマンスをモニタリングし、サプライヤーのキャパシティー・ビルディングを行い、同時にサプライヤーの持続可能性マネジメントシステムを構築するリーダーシップ活動のためのアプローチを含む。 第6章と第7章では、サプライチェーンの持続可能性のための内部の責任とパフォーマンス管理に関する実践的なガイドを提供する。ここでは、内部の調整と役員と調達専門担当者の望ましい役割に関する概念を概観する。加えて、ここでは、目標設定と、自社のサプライチェーンの持続可能性の期待事項に応じる際の内部とサプライヤーのパフォーマンスを監視するための測定基準に関する勧告を提供する。また、対外的な報告の重要性についても考察する。 第8章では、どうすれば、産業界の協働とマルチ・ステークホルダーのパートナーシップがサプライチェーンの持続可能性プログラムの影響を拡大させることができるか、また、それに伴うチャンスとリスクは何か、について説明する。 サプライチェーンの持続可能性については依然として学ぶことが多くある。我々は、サプライチェーンの持続可能性のツールの利用可能性と調整を継続的に改善することを目指しており、このガイドやその他の資料の内容に関する意見を歓迎する。 国連グローバル・コンパクトとBSRとの、サプライチェーンの持続可能性に関するパートナーシップ グローバル・コンパクトとBSRは、企業がサプライチェーンのプログラムと業務において10原則を実施する際の戦略的なガイダンス文書を開発するために、共同プロジェクトを開始した。 このガイドのほかに、グローバル・コンパクトとBSRは、企業が自らのサプライチェーンの持続可能性の現状レベルを決定し、包括的なアプローチの実施において、いかに長期的な進展を図るかを学ぶための、オンラインでの自己評価と学習ツールを開発する予定である。学習ツールは、よりインターアクティブなフォーマットになっているが、その内容はこのガイドをそのまま反映したものである。 このツールとガイドは2010年6月のグローバル・コンパクトのリーダー・サミットにて好評を得た。

  14. 「企業は、しばしば物事を前に進めるためのイニシアティブを取っている。ビジネスとして取り組む意義(business case)にのみに焦点を当てることは、企業が社会の発展のために生み出している価値を過小評価することとなる。」 マッズ・オブリーセン(MadsOvlisen) 国連グローバル・コンパクト サプライチェーンの持続可能性に関する諮問グループ議長

  15. 13 第2章 サプライチェーンの持続可能性に 取り組むにあたって サプライチェーンの持続可能性プログラム開発のための最初のステップは、行動を起こすためにビジネスとして取り組む意義(business case)を評価し、外部環境を理解することである。これらの取り組みは自社にとって最優先のサプライチェーンの課題を確認し、リスクと機会を評価し、内部の支持を得るための助けになる。 ビジネスとして取り組むことの意義を明らかにすること  サプライチェーンにおいて社会的・環境的影響を改善する活動を実施する理由は多数ある。 多くの企業では持続可能性の問題に対処する際、その企業の価値観と企業文化を推進力として取り組んでいる。これらの企業にとって、サプライチェーンの持続可能性を求めることは正しい行動であり、また、社会開発(social development)と環境保護の推進力になるという事実は、内部の支持とコミットメントを誘発する助けとなる。 多くの企業がサプライチェーンの持続可能性のためのビジネス推進力を特定している。個々の企業がビジネスとして取り組む意義は、業界事情、サプライチェーンのフットプリント、ステークホルダーの期待事項、ビジネス戦略、組織の文化等を含めた様々な課題に左右される。多様なビジネス推進力に応じるサプライチェーンの持続可能性マネジメントを実施することによって、ビジネスの価値を最高にまで高めることができる。 サプライチェーンの持続可能性のための最も一般的なビジネス推進力は以下の図に示されている。 サプライチェーンの持続可能性のためにビジネスとして取り組む意義を明らかにすること2 2 BSRから引用

  16. 14 サプライチェーンの持続可能性 サプライチェーンの持続可能性を通じてビジネスの目的を達成すること リスクマネジメントの例:サプライヤーと協働し、マネジメントの実行における最低限の基準(最少雇用年齢、従業員との契約、健康と安全基準など)を保証する。 操業の効率性の例:業務に負の影響を与えることなくコストを削減する(例:実施可能であれば飛行機ではなく船で製品を輸送する)。 持続可能な製品の例:社会や環境の影響を明瞭に考慮した原料(例:ライフサイクルを通じて温室効果ガスの排出が比較的少ない生物由来の プラスチック)を調達する。 • リスクをマネジメントすること • 企業は、サプライヤーが国連グローバル・コンパクトの原則の全エリアをカバーする有効なコンプライアンス・プログラムと確かなマネジメントシステムを持っているかを確認することによって、サプライヤーの人権、労働、環境、ガバナンスの実行に関連して生じる可能性があるサプライチェーンの中断や遅延から自身を守ることができる。主力資材(inputs)について単一の供給源しか持たない企業であれば、リスクマネジメントは、継続的資材確保のために極めて重要である。 • 顧客や投資家の期待事項によって、企業は益々責任あるサプライチェーン・マネジメントを行うようになってきている。社会問題と環境問題にウエイトを置くマネジメントは、企業の評判リスクに対処するのに役立つ。 • 最後に、企業はサプライチェーンの持続可能性に取り組むことで、サプライヤーが今後更に強化されるであろう環境規制や、拡大される製造物責任法に適応し、将来負う可能性のある賠償責任を軽減することもできる。 • 例:オーストラリアの銀行であるウエストパック社(Westpac)は、広告キャンペーンやスポンサーシップを通して、社会とのエンゲージメント、環境保護及び持続可能性と企業のブランドをリンクさせてきた。ウエストパック社は企業の社会的・倫理的・環境的影響の多くは、自身の活動にあると同じくらい、サプライチェーンにも存在し、サプライチェーンの持続可能性のマネジメントは企業の評判とブランド価値を守る上で重要であると認識している。調達管理に関連するリスクには、ネガティブな報道、企業の評判の損傷、顧客に対する実質的な損失が含まれる。ウエストパック社は明確なサプライチェーン・マネジメントの実施を通して、慎重にこれらのリスクを管理している。 • 効率性を実現すること • サプライチェーンの効率性を実現することに焦点を置くことによって、自社の調達コストの削減が可能になるとともに、エネルギー、水、天然及び化学資材の使用などのサプライチェーンの環境フットプリントを削減したり、同時に労働者の健康、モチベーションや生産性の改善もできる。その便益には次のものを含む: • 強固な労働慣行、安全衛生対策。 それらは結果として、より良好なコスト効率性と生産性の向上をもたらす。 • 天然資源の管理、その採取、ロジスティクス、製造を含めたサプライチェーンの基本的なプロセスの理解を深める。それはよりよき資源のマネジメントと責任ある資源管理を可能にする。 • 必要な資源投入の削減とコスト低減を実現する、より効率的に設計されたプロセスやシステム。 • 生産性、効率性へのイニシアティブは、サプライチェーンの様々な段階と、主要な社会的・環境的影響とコスト要因を完全に理解することから始まる。強力なコミュニケーション能力を持ち、ビジネス推進力及び持続可能性トレンドを深く理解し、改善のためのアセスメントや優先順位を共有することを通じて問題の根本原因に対処すれば、企業は必要な改善を推進し、ひいては利益を得ることができる。  • 持続可能な製品を開発すること • 持続可能性の問題に関するサプライヤーとの協力によって製品開発を推進することができる。このようなイニシアティブに率先して取り組む企業は、既存の製品に新たな特質、性能を加えたり、更には全く新しい製品を生みだしてきた。例えば、持続可能な製品は、従来の製品と比べて環境負荷が低減されたり、製品回収や廃棄方法が改善されることも考えられる。 更に、製品の持続可能性は、製品を差別化する要因となり、結果として販売が増大する可能性がある。 • 例:フィンランドの壁紙会社であるアールストローム・オスナブリュック社(Ahlstrom Osnabruck)社は、英国の大半の顧客がFSC基準の製品を購入するコミットメントを宣言した後、1990年代後半に自社製品をFSC(森林管理評議会)の基準に従って開発することに踏み切った。2010年までにアールストローム・オスナブリュック社の全パルプ・サプライヤーはFSCまたはPEFC(Programme for the Endorsement of Forest Certification)基準によって認証された。同社は FSC のCoC認証(加工・流通過程管理認証)を受けた12の工場を持つことで、持続可能な森林の認証製品を求める市場の需要増加に対応できるようになった。

  17. 「企業の購買力は社会にプラスとなる変化をもたらすユニークな推進力となり得る。企業は、この力を使い、自社のサプライチェーンを包括的成長(inclusive growth)の達成手段にしなければならない。インドのような開発途上の経済では、労働者の大半が、サプライチェーンの末端の往々にして組織化されていない分野で雇われている。もし、企業の良好でクリーンなビジネス行動の恩恵がこれらの労働者に及ぶようになれば、彼らの生活のみならず国の福祉にも大きな影響を及ぼすだろう。」 アナンダ・マヒンドラ(Anand Mahindra) マヒンドラ&マヒンドラ社 副会長・業務執行取締役

  18. 16 サプライチェーンの持続可能性 外部環境を理解すること ビジネスの推進力を確認すること以上に、同業他社の取り組み、ステークホルダーの期待事項、パートナーシップを組むチャンス(第8章で更に詳しく述べる)等、サプライチェーンの持続可能性の外部環境を理解することが重要である。 同業他社のベンチマーキング  自社の同業他社はすでにサプライチェーンの持続可能性に取り組んでいるかも知れない。自社の同業他社をベンチマーキングすることによって企業のサプライチェーンの持続可能性プログラムの設計に組み込むべきアイデアを得ると共にビジネスの価値の理解をより洗練化することができるであろう。同業他社の以下の点について知る努力が大切である。 ・サプライチェーンの持続可能性のためにビジネスとして取り組むことの意義 ・人権、労働、環境とガバナンスのリスク・機会・影響の理解と、その結果としてのサプライチェーン中の焦点 ・サプライチェーンの持続可能性を管理するための内部機構 ・行動規範と、それに含まれる事項 ・行動規範の活用方法 ・サプライヤーとのエンゲージメントのための手法とプログラム ・プログラムの成功を評価するための測定基準 ・報告の仕方 自社は関連するベンチマークと比較してどうか? 「2009年サプライチェーンの持続可能性に関するグローバル・コンパクト調査結果」のハイライト • 2009年に国連グローバル・コンパクトが行った署名団体を対象とする調査の中に、サプライチェーンの持続可能性の実行に関する質問も含まれていた。様々な規模、地域、産業からの1,000社以上の回答が寄せられた。 • 回答者の83%がサプライヤーをグローバル・コンパクトの原則に従わせることを考えており、従業員5万人以上の企業の46%がサプライヤーはグローバル・コンパクトの原則に従うべきと強く考えると回答している。しかしながら、5万人以下の企業では、約30%が同原則に従うべきと強く考えていると回答した。 • サプライヤーを同原則に従わせることを全く考えないとした17%の回答者は、その理由として、能力がないこと(28%)、優先事項でないこと(28%)、原則を調達行動に統合するための知識がないこと(25%)を挙げた。   • 新しいサプライチェーン・パートナーの選択に当たって、グローバル・コンパクトへの加盟を考慮するとしている企業のうち、45%は公開情報に依存し、37%は自己査定質問表を基にし、37%は他社の情報をレビューし、32%は自社のスタッフによる現地監査報告に頼っている。 • グローバル・コンパクトへの参加を検討している企業では、サプライチェーン・パートナーを選定する場合の現状のサプライチェーン・パートナーの評価は、36%が自社の従業員の監査によって実施し、35%が自己評価アンケートへの回答によって実施し、32%が通常のビジネスのレビューの時に企業責任パフォーマンスのアセスメントを行っている。 • 最大規模の企業(従業員5万人以上)においては、サプライチェーン・パートナーが改善し、グローバル・コンパクトの原則を遵守するようになるために、特定の問題についてのトレーニング(31%)、能力別グループ編成、目標の設定と見直しの支援(26%)、改善プランのレビューと講評(26%)、コンサルタントや市民社会団体などの第三者のエキスパートの紹介(24%)などの様々な支援活動をしていると回答した。しかしながら、より小規模な企業は、この質問に対してノーアクションをトップに挙げていた。 • 全企業の52%、そして最大規模の企業の84%は、企業責任の期待事項を関連の文書に明記している(例えば、契約書、提案書、注文書)。 • 全社の43%、最大規模の企業の72%は、企業責任についてのトレーニングを彼らの調達スタッフにしている。 • しかしながら、13%の企業がビジネスと企業責任に関する基準とのバランスを取る購買決定を行っており、15%がビジネスと企業責任の基準を満たしているサプライヤーに報いている。

  19. 17 持続可能サプライチェーンにおけるステークホルダーとしての出資者と顧客の重要性 顧客と投資者は企業に対して、サプライチェーンにおける影響を理解し管理するよう期待を増大させている。 投資者は、企業がサプライチェーンに影響を及ぼす主たるリスクを認識し、 緩和策を講じていることを確認したいと望んでいる。加えて、企業がサプライチェーンの持続可能性からいかに価値を引き出しているかに興味を持っている。 消費者とビジネス顧客は企業がサプライチェーンをもっと厳密に管理することを奨励している。特にある顧客はもっと持続可能な製品を求めているし、一方で、ビジネス顧客はサプライヤー選択の基準としてサプライチェーンの持続可能性を含めるかもしれない。 産業界においては、共同の行動規範(第3章を参照)を採用し、例えば、監査やトレーニングを行う際の協力等、協働によるサプライヤーのエンゲージメントの側面に取り組んでいるものもある。同業他社に対するベンチマーキングを行うと、これらの協働アプローチや産業イニシティブ(8章にて詳述)を把握することができ、サプライチェーンの持続可能性を一から構築する必要はなくなる。 最後に、サプライヤー自身はしばしばグッド・プラクティスの例を提供し、彼らの要望を顧客に伝えることができる。 ステークホルダーの期待事項を理解すること 企業は、国と地方自治体、労働者と経営者の団体、NGO、アドボカシーと活動家の団体、学術界と専門家、地域社会グループ、サプライヤーなどのステークホルダーの期待事項を理解することに投資すべきである。  さらに、企業は顧客や投資家からの意見収集により恩恵を受けることもできる。顧客や投資家の要望はサプライチェーンの持続可能性プログラムにおいて主たる推進力となる。また、顧客や投資家といったステークホルダーの見識を利用して、企業へのリターンを最大化できるプログラムを形成することができる。 プログラム設計のプロセスの早い時期から、また、定期的にステークホルダーに関わってもらうことにより、企業は、持続的なサプライチェーン・マネジメントに関連する基準や手法を特定することができる。ステークホルダーの中には種々の行動規範やサプライヤー認証について知識があるだけではなく、その開発に関わっている者もいる。例えば、宝石のためのキンバリー・プロセス(Kimberly Process)、木材と紙製品のためのFSC(森林管理評議会)認証、産業をまたがった責任ある労働慣行のためのSA8000がある。彼らは、様々な選択肢の信頼性を評価し、どれが自社のプログラムにとって意味のある情報であるかを特定するために役に立つ。 サプライチェーンにおける高まるリスクと好機。顧客や従業員から活動家やNGOまで、ステークホルダーは、しばしばサプライチェーンの新しい環境・社会・経済の課題を最初に特定する者である。ステークホルダーと初期の段階から定期的に関わりを持つ企業は、活動家達のキャンペーン行動等で知らされる前に、これらの課題に対して事前(proactive)の行動をとり、またステークホルダーと協働するチャンスを得る。ステークホールダーとのエンゲージメントを通じて早期に課題を認識することによって、企業は同業他社に比べて、早期のリーダーシップを取ることができる。詳細は、第8章のマルチ・ステークホルダーとの協働を参照すること 例:行動規範を策定する時、ウエストパック社(Westpac)は地域のコミュニティ協議会、サプライヤー、NGOに相談した。同社は、豪保全財団、豪消費者協会、豪社会保障評議会、金融部門連合、人権・機会均等委員会などの様々な組織からのフィードバックを得た。ウエストパック社はこれらのグループから寄せられた課題を傾聴し、これに返答した。更に同社は「持続可能なサプライチェーン・マネジメント(SSCM)政策検討委員会」を設立し、その中で内外のステークホルダーのSSCMへの見解を聞き、そのプロセスを進展させることができた。

  20. 18 サプライチェーンの持続可能性 • ビジョンを確立すること •  自社のサプライチェーンの持続可能性プログラムのための明確なビジョンと目的を持つことは、自社の戦略に方向性を与え、自社のコミットメントを明確にする。ビジョンはプログラムの成功を評価し、また、継続して改善するべきエリアを特定する上で有用な判断基準となる。 • 企業のビジョンや目的の策定が自社のトップによって支持されることは、重要なことである。このことはプログラムを成功させる上で絶対に欠かせない要因である。さらに、企業のリーダー達の支持を確実にするために、サプライチェーンに関わる全ての部門の上級マネジャー、取締役がビジョン策定のプロセスで相談を受け、意見を言えることが重要である。企業はいかにサプライマネジメント機能の様々な部門からの代表者をビジョン策定に参加させるかを考えるべきである。すなわち、調達と業務、企業責任、設計、マーケティング、ロジスティクス、品質管理、コンプライアンス、法務、人材と環境、健康と安全などの各機能は、夫々サプライチェーンの持続可能性プログラム実施時において果たすべき役目があるため、上記のビジョン策定に参加することが重要である。小規模企業にとってはリーダーが持続可能なサプライチェーンのビジョンに賛成していることが同じくらい重要である。 • このプロセスの結果はビジョンとコミットメントの宣言であるべきである。この宣言を作成する時、いかなる動機で企業は持続可能なサプライチェーン・マネジメントに投資するかを考えなければならない。以下のような動機が考えられる。 • 顧客の要望と関心 • 自社の企業ブランドや評判に影響を及ぼすサプライチェーンの業務に対するNGOや活動家の苦情 • サプライチェーンのリスクをどのように管理しているかを知るための、投資家による調査 • ビジネス遂行の妨げとなる、規則や基準の不遵守 • 需要の増大と天然資源の供給減の結果であるコスト上昇 • 同じ産業界で持続可能なサプライチェーン・プログラムを策定している同業社の圧力 • 持続可能性について力を注ぎ実行する企業文化 • 業務の長期に亘る持続可能性を確実にするために、環境と社会のマクロ問題に対応したビジネスの関心 • 具体的な目的や、企業の業績に響く潜在的な障壁やリスク事象を明らかにすることも重要である。企業はサプライチェーン・プログラムを通して何を達成したいと望んでいるのか? 自社がそれに向かって努力したい長期の業績は何か? 持続的なサプライチェーンは自社のビジネス戦略をいかにサポートするか? 目的には、戦略的ビジネス目標(例えば、企業にとっての長期に亘る価値を創造すること)、業務上のビジネスの目標(例えば、無駄なエネルギーや材料を節約すること)、自社の評判を改善する目標(例えば、自社に対するステークホルダーの意見を変えたいと願うこと)、コンプライアンスを基礎とした目標(例えば、全ての適用される法規、規則を遵守した活動を行うこと)など、様々なものがある。 • 企業は、自社のビジネスの動機と目的に基づいて、何をプログラムの長期的な成功と考えるかを反映したビジョン宣言を作ることができる。自社のビジョン宣言の例を次ページに示した。企業が課題を認識し、理解し、経験を得るにつれて、ビジョンを見直すことが必要となるかもしれない。 • 例:アルゼンチンに拠点を置く食品、菓子製造業のグルポ・アルコア社(GrupoArcor)は、顧客、信用機関、政府、ビジネス会議所等から同社のサプライチェーンと持続可能性について益々増加する要請や質問に直面した。その結果、同社は自社のCSR方針をサプライヤーとの関係に統合するというビジョンに基づき、「サプライヤー社会的責任プログラム」を立ち上げた。その具体的な目的は以下の通りである: • 同社のCSR行動とサプライヤー契約方針にサプライヤーを適合させること。 • 持続可能性に基づく同社の生産及びマネジメントのプロセスにおいて、最小限の共通基準を保障すること。 • 通常は競合的なマーケットから排除されてしまう、生産活動をしている脆弱なグループの経済的包含を積極的に行いながら、グルポ・アルコア社のサプライ源を増やし、向上させること。 • このプログラムには3つの主たる戦略がある。それは、現実認識とトレーニング、サプライヤー採用方針へのCSRの段階的組込み、具体的な責任ある購買プロジェクトである。

  21. サプライチェーンの持続可能性ビジョン宣言 ロレアル(L’Oreal) 「私たちは、信頼及び相互利益を基礎として、顧客及びサプライヤーと強力かつ永続的関係を築くことを約束する。私たちは、誠実にビジネスを遂行する、私たちは、業務を遂行している国の法律を尊重し、良好なガバナンス慣行を遵守する。(中略)私たちは、自然環境に与える影響に注意する。(中略)私たちは、人権を尊重する。私たちは、児童労働や強制労働を終わらせたいと願う。(中略)私たちは、私たちの価値観と倫理的なコミットメントを共有する良きビジネス・パートナーを積極的に求め、大切にする。」 ノキア (Nokia) 「ノキアにおいて私たちはリスクを予想し、企業の価値を立証し、私たちのガバナンスを高め、従業員満足度を増大させ、私たちがビジネスを行っている環境やコミュニティに配慮することに力を尽くす。私たちは、サプライヤー・ネットワークの企業群が私たちと同様な倫理観に基づくビジネス手法を採用し、この分野だけでなく同時に彼ら自身のサプライヤーの教育と監督においても進歩と達成を実証することを期待する。 私たちの目的は、環境、倫理、健康、安全問題と労働慣行が、別々の付加的な問題ではなく、サプライヤーの選択と関係の発展も含めた私たちのすべての調達プロセスに組み込まれたものとすることである。」

  22. 20 サプライチェーンの持続可能性

  23. 21 第3章 サプライチェーンにおける持続可能性についての期待事項を明確にすること サプライチェーンの持続可能性に対する自社のビションを確立するにあたり、次の重要なステップは、期待事項を、サプライヤーと従業員に方向性を示す明確なガイドラインに変換することである。最小限、サプライヤーが国内法令を遵守し、環境的、社会的損害を避けるため事前の対策をとることを期待するべきである。3 行動規範の概要 行動規範は、顧客とサプライヤーの両者に対し期待事項を明確にし、マネジメントする上できわめて重要である。行動規範は持続可能性に関する共有の基盤を確立し、それに基づき、調達専門担当者や、サプライヤー、その他のプレイヤーが、行動規範に基づいた決定をすることができる。 多くの企業にとって、サプライヤー行動規範は企業価値宣言の自然な延長で、新しい要求事項というよりは既存の期待事項の確認とみなされるものである。 行動規範を開発するとき、参照、参考にすべき一連の国際標準がある。これらは、後半で概説する。 行動規範を採用若しくは規定すること グローバル・コンパクトの諸原則は、行動規範を包括的たらしめるのに必要な各分野の要点を述べている。多くの企業は、第2章で記述される外部環境レビューで、同業他社がすでに共通の行動規範を構築したことを知るであろう。共通の行動規範は、サプライヤーが遵守すべき基準の数を減らすことで、サプライヤーの負担を最小限にすることを意図して作成されている。同じく、サプライヤーを共同監査するプロセスを合理化して、企業自身の行動規範作成に必要な労力を減らすことも意図している。 しかし、共通の行動規範は、グローバル・コンパクトのすべての課題分野に対処していないか、自社の特定の関心に合致しないかもしれない、というリスクがある。企業は、これらの共通の標準のうちのどれか1つの採用が執行経営陣の全面的支持を受けるか、企業が作成する特有の行動規範に代わる、若しくは増強するものであるかどうか、を検討すべきである。そして、企業が自身の行動規範を規定することが必要であると意思決定したとしても、依然として共通の行動規範は役に立つスタート・ポイントでありえる。 業界での包括的な共通の行動規範がないか、あるいは、あったとしても自社がそのサプライチェーンにとって適切でないと考える場合、サプライチェーン・マネジメントに適用されるいくつかの参照すべき原則や取り組みがある。  行動規範の社会的要素については、企業は国連人権宣言と、ILO(国際労働機関)の中核的条約と勧告を参照すべきであり、これらは、労働、雇用、社会保障、社会政策と人権に関する広範な共通の期待事項を明確にしている。 業界によって最も関連する環境課題は異なる。そこで、行動規範でカバーする最も重要な課題が何かについて明確にするため、対話と協働がきわめて重要になる。用語の更新と解釈が必要かどうかを決定するために、定期的に行動規範の内容を見直すことも、重要である。 3保護・尊重・救済:ビジネスと人権の枠組み、人権と多国籍企業等の企業の問題に関する特別代表報告、ジョン・ラギー、2008年4月7日

  24. 22 サプライチェーンの持続可能性 行動規範の開発における鍵となるステップは、以下を含む: 1. サプライヤーを含むステークホルダーと協議する。 2.国際法を軽視することを避け、複数の買い手をもつサプライヤーにとって矛盾する期待事項とならないよう、新しい基準を発明することより、むしろ既存の国際行動規範に期待事項の基礎を置く。 3. 部門横断的なチーム、特に調達専門担当者と協議する。 4.サプライヤーがこれらの期待を自身のサプライ基盤に伝える、という規定を検討する 。 例 : 製品が益々オンラインで配信されようになっているが、印刷出版はまだリード・エルゼビア社(Reed Elsevier)の事業の重要な一部であり、同社は大量の紙を購入している。リード・エルゼビア社の課題は、自社が使う紙の持続可能性をよりよく理解することであった。 リード・エルゼビア社が自身の行動のために設定した倫理基準にサプライヤーが合致することを確かなものとするために、同社は、「リード・エルゼビア(RE)社会的責任サプライヤー(SRS)プログラム」を2003年に開始した。同社の基本理念は「リード・エルゼビア・サプライヤー行動規範」であり、それはグローバル・コンパクトの10原則を取り入れている。サプライヤーは、署名と、彼らの職場に行動規範を目立つように設置するよう依頼される。それはまた、サプライヤーが下請け業者に対して、サプライヤー行動規範を支持するコミットメントを書面で行うことにより、彼ら自身のサプライチェーンにベスト・プラクティスを広めるのに役立つ。 リード・エルゼビア社はまた、年次アンケート調査も開始した。サプライヤーに行動規範のすべての要素と10原則について彼らのパフォーマンスを答えるよう質問している。鍵となる環境課題(例、工場標準、森林認証、リサイクル内容、漂白、資源使用削減の取り組み)に関してだけでなく、彼らがどのように、児童労働と強制労働を使わないこと、職場差別を排除すること、結成の自由を進めることを確実とするか、などについて質している。 サプライヤー行動規範の文面と採用に関する 課題と参照事項 グローバル・コンパクト原則と関連する政策分野の例    参考資料 グローバル・コンパクト原則と関連する政策分野の例 参考資料 • 環境 • 有毒物質と化学物質 • 原材料使用 • リサイクル容易性及び使用済み商品 • 温室効果ガス排出 • エネルギー利用 • 水利用、廃水処理 • 大気汚染 • 生物多様性 • 人権と労働 • 強制労働 • 児童労働 • 勤務時間 • 適切な賃金 • 人道的な扱い • 差別しないこと • 結成の自由と団体交渉権 • 職場の安全 • 緊急災害時の対応 • 業務上の傷害・疾病 • 火災の予防 • 職場の衛生 • 身体的負荷のかかる作業 • 機械装置の安全 国連グローバル・コンパクト** 世界人権宣言 保護・尊重・救済 : ビジネスと人権のための枠組み ILOの国際労働基準 ILOの安全衛生に関する行動規範 OECD多国籍企業ガイドライン 環境と開発に関するリオ宣言 国連腐敗防止条約 ISO14001 SA8000 OHSAS18001 • 腐敗防止 • 利益相反 • 贈物、食事、接待 • 贈収賄と割戻金 • 会計と業務記録 • 情報の保護 • 不祥事報告 **行動規範のモデルとなる文例を含め、サプライチェーンにおける腐敗防止に関する詳細については、グローバル・コンパクトの出版物『サプライチェーンでの腐敗を防止する: 顧客とサプライヤーのためのガイド』を参照のこと。

  25. 23 • 例:リーバイ・ストラウス社(Levi Strauss & Co)は、グローバル調達・運営ガイドラインを確立した最初の多国籍企業であった。それは、どこで事業をおこなおうとも、責任ある商習慣に対する企業のコミットメントを概説している。ガイドラインは、2つのパーツを含んでいる: (1) 国評価ガイドライン。それは特定の国でビジネスを行うことに伴う潜在的問題を評価することに役立つ。 (2) 取引条件規定。それは、自社の企業価値と整合した職場標準と商習慣に従うビジネス・パートナーを確定するのに役立つ。 • 情報通信技術産業のリーディング・カンパニー40社以上の業界組織である電子業界CSRアライアンス(EICC)は、共通のサプライチェーン行動規範を確立し、それは、顧客の期待事項に関する統一された声を提供し、サプライヤーと顧客の両者に対してサプライチェーン条件の管理を合理化し、変化しつつある社会的・環境的な状況の両者に焦点を当てている。EICCの各加盟企業は、行動規範を採用し、サプライチェーンでそれを実行することに取り組んでいる。 • グルローバル・ソーシャル・コンプライアンス・プログラムは、サプライチェーンの持続可能性行動規範と手法を調和させようとする世界的な産業横断的なプラットホームである。 • 行動規範を使用すること • サプライチェーンの持続可能性に関する自社の目標に合致するために、行動規範は、内部及び外部の期待事項を設定するための基礎として、また、サプライヤーと他のステークホルダーとの活動及び契約の枠組みとして用いられるべきである。 • 新しい行動規範は、記述されたその基準の認識を向上するために自社全体を通して共有される必要がある。調達専門担当者は、行動規範を既存及び新規のサプライヤーに伝達し、コンプライアンスと継続的改善を確実にするためサプライヤーとどのように協働しようとしているかを説明するため、行動規範の要素を熟知する必要があろう。可能性があるメカニズムには、企業内のウェブサイト、特に新しいスタッフのための定期的な研修、行動規範の重要性を強固なものにするための経営陣からの日常的なコミュニケーションなどがある。また、自社の構造の規模の大きさと複雑さ次第であるが、どのように行動規範がスタッフによって実施されるべきかについて説明するために、内部の方針と手順を確立することが役立つ場合がある。 • 企業は、しばしばサプライヤーに行動規範を通知するために以下のような様々な方法をとる。 • 特別な、1回限りのコミュニケーション。コミュニケーションが自社の上級レベル経営層(例えばCEOまたはCPO(チーフ調達オフィサー))からの場合、この方法はしばしば最も効果的である。 • サプライヤーと最初の接点で行動規範を盛り込む。ウェブサイトに行動規範を掲示することによって、また、提案・見積り依頼の要求にそれを入れることにより、サプライヤーとの新しい関係の最初の段階で企業は行動規範を盛り込ませている。これは、潜在的サプライヤーに対し、持続可能性が企業との彼らとの関係で果たす重要性の認識を向上させることに役立つ。 • サプライヤーとの契約に行動規範を統合する。多くの企業は行動規範をサプライヤーとの契約、若しくは注文書に統合している。それは、サプライヤーに対して行動規範で提示している期待事項を遵守することを契約書の中で約束するということを依頼することによる。 • 定期的な業務会議での行動規範の見直し。行動規範の導入を既定のビジネス・プロセスに関連づけることと、調達専門担当者に情報を提示させることは、ビジネスと持続可能性パフォーマンスの関係の強さを示すことになろう。また、将来、契約と評価プロセスの一環としてサプライチェーンの持続可能性担当者とサプライヤーとの間に交流があるならば、それらの担当者を業務会議に参加させることは役に立つことがあろう。 • 例:ノルウェーの通信サービスの世界的な提供者であるテレノール社(Telenor)は、サプライヤーとの責任あるビジネス行動に関する協定を通して、その行動規範を実施している。これらの協定は、サプライヤーが行動規範にコミットするだけでなく、不遵守に対する監視と制裁も許すことを要求している。また、テレノール社は、そのサプライヤーに対し自社の行動規範の要求事項を次につなげる(カスケードしていく)ことを要求して、サプライチェーンでのどんな段階でも監視する権利を留保している。

  26. 24 サプライチェーンの持続可能性

  27. 25 第4章 適用範囲を決める 持続可能なサプライチェーン・プログラムの次のステップは、適用範囲を決めることである。サプライチェーンにおける持続可能性に取り組み始めたばかりの企業は、サプライチェーン全体を関わらせることを求める、またはそうであるべきと感じることが多い。しかしながら、多くの企業のサプライチェーンの規模や広がり、効果的な参加に必要とされる資源を考えると、それは非現実的である。 従って、多くの企業は「カギとなる」、言いかえれば「戦略的」なサプライヤーにプログラム作りの焦点を当てる選択をする。そのサプライヤーとは企業が直接取引をしている相手で、かつ、生産に不可欠な取扱高の高い貢献度を持っている相手である場合が多い。 加えて、自社のサプライチェーンの中で特に「重要度が高い」部分があるだろう。たとえ自社の業務から何段階か離れているとしても、リスクレベルが高いために速やかな注意が必要とされるサプライヤーである。例えば、電子機器メーカーは、社会的対立によって影響を受けている、または人権侵害が起きている地域で生産されている鉱物資源に焦点を当て始めている。 プログラムの適用範囲を決める目的は、自社のどのサプライヤーにどの程度関与すべきかを特定するためである。その際、留意すべきことは、企業経営がより洗練され、サプライチェーンの持続可能性を効率的に管理する能力が増すにつれて、プログラムの範囲も変化することである。 例:フォード社(Ford Motor Company)は、6-7段階先のサプライヤーではあるが、製鋼用の銑鉄の生産における強制労働に対して取り組むことを優先することとした。 テレノール・グループ(Telenor Group)は責任あるサプライチェーン・プログラム策定において、当初からサプライチェーンのいかなる段階も除外しなかった。さらに、テレノールは、顧客を除き、契約関係にあるパートナーすべてを「サプライヤー」と定義づけた。サプライチェーンのリスク評価と実際の取り組みの中での優先順位付けによって、業務レベルでの実際の範囲決めが行われた。 一次サプライヤーとの関係の先をみることの重要性 二次サプライヤーとは、自社の一次サプライヤーへ供給するサプライヤーと定義される。自社が直接、調達をするわけではないが、その生産する製品・サービスの原材料や部品を供給する相手である。 例えば、情報技術セクターでは、電子機器の部品となる鉱物を供給する鉱山企業は二次サプライヤーである。同じように、金融サービスセクターでは、データセンターを運営するために利用するサービスを提供するコンピュータのハードウェア製造業は、二次サプライヤーである。 直接の交流と影響力が足りないため、二次サプライヤーを自社のサプライチェーン・プログラムの中に含めるかどうか、どうやって含めていけばいいのか、多くの企業が四苦八苦している。 しかし、持続可能性に取り組む際の最も重要な課題を二次サプライヤーが抱えているということが、多くの企業や業界で明らかになってきている。サプライチェーン全体をマッピングすることで、持続可能性に関わる課題がどこで起きうるかということを把握しておくことをお勧めする。そして自社のビジネスに対する重要性や社会への将来的な影響度を評価し、自社のサプライチェーンの持続可能性プログラムの適用範囲に含めるかどうか、含めるとすればどのように含めるかを決めることになる。

  28. 26 サプライチェーンの持続可能性 食品会社のサプライチェーンにおけるリスク事象の例 児童労働: サプライチェーン上の農場における児童労働の疑惑。 労働時間・賃金: 食品加工工場の労働者が低賃金や超過労働に対する賃金不払いなどに対してストライキを行う。 腐敗: サプライヤーの管理者が、収入やロイヤリティを不正使用する。 食品の安全性: 加工工場で適切な洗浄が行われなかったことで製品に有害物質等が混じる。 先住民: 先住民の生命や生計にとって不可侵または不可欠な土地において農業が行われる。 公害: 加工工場が排水処理を適切に行わず、地域の規制を遵守していない。 *このリストは例として挙げたもので、包括的なもとは意図していない。 • サプライチェーンのマッピング • サプライチェーンにおける持続可能性を管理するための適切な適用範囲の設定を理解するためには、まずは自社のサプライチェーンを明確にする必要がある。サプライチェーン・マップをつくると、製品・サービスの原材料生産から市場までの工程に関わる組織・個人のカギとなる活動を描くことができる。一般的な製品のサプライチェーンを以下に示す。 • もちろん、個々の製品・サービスのサプライチェーンは異なる。サプライチェーン・マッピングは、製品・サービスカテゴリごとに行うべきである。接客業や運輸交通などのサービス産業の場合、自社のサービスの様々な段階を考え、カギとなる資産(運輸業の場合の船舶など)やサービスを補助する製品(接客業における食品など)に焦点を当てる。 • (マッピングを)始めるポイントとして最も重要な製品・サービスのカテゴリに目を向けることを勧める。調達契約、自社の売上原価のデータや類似の一次情報を見直してみることで、そのような製品・サービスが特定できる。例えば、自動車レンタルサービス企業の主要な資産は保有する車両や予約等を管理するためのコンピュータ・システムである。これらのカテゴリはマップピングされる必要がある。 • サプライチェーンをマッピングするには: • マップピングする主な製品・サービスを特定する。自社が調達する製品・サービスの最大カテゴリや事業経営にとって不可欠なカテゴリを考える。 • 製品・サービスカテゴリごとに、原材料や情報の流れを追う。一次サプライヤーだけでなく、原材料や元のサプライヤーまでさかのぼること。思い込みをしてはいけない。実際の関係や取引を理解するよう努めよう。時には、仲介業者や卸売業者がカギとなる役割を持っていることもある。 • サプライチェーンの各段階における人権、労働、環境、腐敗等の課題について情報収集する。これらの課題に関連したポテンシャルリスクと機会がどこにあるか?これらの課題を特定するために、政府だけでなく、同業者、サプライヤー、業界団体、市民社会団体、活動家等と議論することは有効である。 小売業の視点からの 一般的なサプライチェーンの段階 サプライチェーン 消費者の使用/最終 製造/加工 運輸/保管 原料 小売 包装

  29. 「私たちは、益々資源を意識する、資源制約の大きい世界に生きている。私たちは現世代が利用可能な資源の範囲内で生きるべきであり、未来世代のための資源を借りてはならない。持続可能な明日を築くためには、現在のサプライチェーンを持続可能なものにする必要がある。サプライチェーンにおける持続可能性を高めることはすべての組織・ステークホルダーに対してリスクを軽減し、利益を増やすことになると固く信じている。」「私たちは、益々資源を意識する、資源制約の大きい世界に生きている。私たちは現世代が利用可能な資源の範囲内で生きるべきであり、未来世代のための資源を借りてはならない。持続可能な明日を築くためには、現在のサプライチェーンを持続可能なものにする必要がある。サプライチェーンにおける持続可能性を高めることはすべての組織・ステークホルダーに対してリスクを軽減し、利益を増やすことになると固く信じている。」 クリス・ゴパラクリシュナン (Kris Gopalakrishnan) インフォシス(Infosys) 最高経営責任者兼共同創始者

  30. 28 サプライチェーンの持続可能性 • サプライチェーンの細分化 • 自らのサプライチェーンを理解するようになると、持続可能性を高めるために、サプライヤーを細分化し、どのように経営資源をつぎ込めばいいかを決める段階に入る。 • 細分化によってサプライチェーンの中で最も重要な要素に焦点を当てることができるようになる。妥当な細分化によって、常に存在するリスクと、自社のビジネスと社会に対して否定的な影響を与えうる、対処を要する特定のリスクの間のバランスをとることができる。 • サプライチェーン細分化を考える際のいくつかの基準を挙げる。 • 社会へのリスク:自社のサプライチェーンにおいて、人権、労働、環境、倫理に関する最大のリスクはどこにあるか? • ビジネス・リスク:ビジネスを行い、サプライチェーンの持続可能性達成のためのビジョンを満たすための能力に影響を与えうる、自社のサプライチェーンにおけるリスクは? • 経済開発へのリスク:行動規範やモニタリング、監査の取り組みの導入において中小企業(SMEs)を除外することのリスクは? • ビジネス・リスクも社会リスクも以下の要素に影響を受ける: • 取扱高:自社にとって直接・間接を問わず、最も高い取扱高を持ち、最も影響力を行使できる可能性のあるサプライヤーか? • 国:サプライヤーがどの国で操業しているのか? そして脆弱な法規制の枠組みや腐敗度の高さなどから、どの国のリスクが高いと判断できるのか? • カテゴリ:製品・加工のサプライヤーも含めてどのサプライヤーが自社にとって最も重要か? • 段階:自社と直接に取引をするサプライヤーか、二次サプライヤーか? • 取引の性質:サプライチェーンにおける条件に関する透明性やアカウンタビリティが取引によって左右されるか?例えば、請負業者が雇用する労働者、ブローカー、代理店、仲買業者などは知識、認識、影響力においてギャップが生まれる可能性が高い。 • サプライチェーンでのリスクのマッピングには大きく2段階ある: • 1.リスク事象を特定する。例えば、サプライチェーンのある工場での低賃金支払などの出来事は自社のビジネスにとってリスクを起こしうる。法律に反しているだけでなく、持続可能なサプライチェーンの達成や事業目的に影響を与えるような、内部発生若しくは外部発生両方の出来事が特定されなくてはならない。リスクには、事業継続、規制、評判、市場による受け入れ、顧客による要求事項などが含まれる。外部のステークホルダーは、その他の社会的・環境的・経済的・ガバナンス上のリスクを特定してくれる可能性がある。そのようなリスクについては自社にとっての影響度合いを評価する必要がある。 • 2.リスク事象の可能性と影響度の評価。リスク事象はその発生可能性と影響度について分析する必要がある。自社のサプライチェーンの持続可能性プログラムの中でどのように管理されるべきかを決めることにつながる。 •  左図に示されているように、「発生可能性」と「結果の重要度」の2つの軸で構成される格子状の図にリスク事象を落とし込むことが有益だと多くの企業は考えている。リスクを サプライチェーンの持続可能性リスクのマッピング リスク発生の可能性 リスクによる影響/重要度

  31. 29 ランク付けするのに、別の項目やインプットを追加することも可能である。例えば、リスクに関する認識はステークホルダーによって異なるが、自社が優先順位づけをする際にこのような認識を考慮に入れることは考えられる。 最後に、自社のサプライチェーンの細分化を効率的に行うためにこれらの分析を活用するには、サプライヤーの種類ごとにリスクを解釈する必要がある。例えば、あるIT企業は最も高いリスクは製造に使われている原料の鉱物であるとするかもしれない。したがって、同社は、サプライチェーン・プログラムにもとづいてサプライチェーンの持続可能性プログラムに焦点を当てようとするだろう。一方で、ある医薬品企業は品質や患者の安全性が危険にさらされる可能性から、製品の輸送段階に最も高いリスクがあるとするかもしれない。この企業は、ビジネス倫理、労働、事業継続に関する課題に対処するために、ロジスティクスのサプライヤーと協働することになる。ロジスティクスや運輸・交通における温室効果ガス排出や包装廃棄物、環境マネジメントなどのリスクは多くの産業にとって共通の課題だが、事業規模によって必要とされる取り組みは異なるだろう。 例:サプライヤー・マッピングを通して、メキシコの建築物資材企業であるセメックス社(CEMEX)は、サプライチェーンに対する支出の80%がサプライヤーの20%に行っていることに気付いた。サプライチェーン全体の規模の大きさとサプライヤーの変化に及ぼしうる影響力から、セメックス社は20%に注力することで効率的に持続可能性を向上させ、ビジネス価値を実現できると判断した。 ルクセンブルクに拠点を持つ鉱山会社であるアルセロール・ミッタル社(ArcelorMittal)は、鉄鉱石などの原材料から加工度の高い下流の製品・サービスまで500億米ドルのサプライチェーンをもつ。サプライチェーンのカテゴリごとに持続可能性に関わるリスクと機会をマッピングするために、机上調査だけでなく内部専門家、調達チーム等からのインプットを活用した。同社は、リスクをマッピングする手法は、しっかりとしていると同時にシンプルであり、組織の核心部分であるリスクマネジメントアプローチと整合性がないと、対処すべきカギとなる優先事項を具体化できないと確信した。調達カテゴリごとに2×2のマトリックス(影響度×発生可能性)を作成することとし、内部の幅広い作業グループから参加者を募ったワークショップを開催し、課題とともに機会について議論を行った。リスクマップを最新の状態に保つためには定期的にこのプロセスを繰り返す必要があるだろう。

  32. 30 サプライチェーンの持続可能性 例:サプライチェーンにおける環境・健康・安全影響に対処するために、インドの企業グループであるマヒンドラ&マヒンドラ社(Mahindra &Mahindra Limited)は、サプライヤーと自社の知識やベスト・プラクティスを共有するプログラムを始めた。すべてのサプライヤーに詳細なアンケート票が配布された。このアンケートにより、サプライチェーンにおける現在の工程や無責任は廃棄物処理など環境面での課題のレベルを理解する基礎となった。サプライヤーが次のように分類された。 • A. EMS/OHSAS認証なしで、有害な工程、危険な業務を行っているサプライヤー • B. EMS/OHSAS認証ありで、有害な工程、危険な業務を行っているサプライヤー • C. EMS/OHSAS認証はないが、有害な工程、危険な業務を行っていないサプライヤー • D. EMS/OHSAS認証ありで、有害な工程、危険な業務を行っていないサプライヤー • 同社の改善プログラムを継続するに当たり、A及びBに分類されたサプライヤーへの対処が優先された。 例:日本の技術ハードウェア機器企業であるエプソン社では、サプライヤーを下記のコントロールレベルで組織化した。サプライヤーは、同社のCSRに関する取り組みへの影響度と製造を維持する能力によって5つのレベルに分類される。 サプライヤーのコントロールレベル コントロール レベル レベル 1 レベル 2 ガイドライン CSR及びコンプライアンスへの影響は低い、製造への影響はなし CSR及びコンプライアンスへの影響はある程度あり、製造への影響はなし レベル 3 レベル 4 レベル 5 CSR及びコンプライアンスへの影響はある程度あり、製造への影響は間接的 CSR及びコンプライアンスへの影響はある程度あり、製造への直接の影響がある。代替サプライヤーがいる CSR及びコンプライアンスへの影響はある程度あり、製造への直接の影響がある。代替サプライヤーがいないため、製造を維持するのに問題がある

  33. 32 サプライチェーンの持続可能性

  34. 33 第5章 サプライヤーとの関係構築 サプライヤーとの関係構築(エンゲージメント)における究極の目標は、持続可能性の問題についての共通認識を構築し、サプライヤー自身が持続可能性についてのビジョン・戦略・パフォーマンスについて当事者意識を持つようにし、サプライヤーと優先事項を共有してより密接に協力できるようにすることである。 企業がサプライチェーンにおける持続可能性を改善するために利用できる手段は様々存在している。この章で紹介するメカニズムは、サプライヤーの意識を向上させるとともに、サプライヤーが改善点への障害を乗り越えられるようにするために、企業がサプライヤーに対する期待事項を定め、継続してサプライヤーのモニタリングを行い、彼らと協力することを通して、持続可能性を彼らの事業に組み込み推進していくことを推奨することにフォーカスしている。  下記の図は、広範囲にわたる業界の企業がサプライチェーンの持続可能性に関してサプライヤーと関係を構築する場合に用いる各ツールを示している。各ツールには、特定の目的があり、サプライヤーとの関係構築ツールは、どれをどの範囲で使用すべきかを決定するために、戦略的プロセスを採用することが重要である。 持続可能性に関する サプライヤーとの関係構築ツール4 深い エンゲージメント パートナー シップ 持続可能性に関する パフォーマンスが低い根 本原因に対処するためサプラ イヤーの当事者意識を高める 是正と キャパシティ・ビルディング パフォーマンスが低い問題に対処するよう サプライヤーへ依頼する。 訓練、経営資源を提供し、持続可能性の マネジメントとパフォーマンスの改善を支援する。 広い エンゲージ メント 監視と監査 サプライヤーに対し持続可能性の パフォーマンスの自己評価を依頼する。 期待を設定すること 自社の持続可能性に関する期待をサプライヤーへ伝える。 行動規範を含めた期待を契約に含める。 4 BSRから引用

  35. 34 サプライチェーンの持続可能性 コミュニケーションの方法選択 サプライチェーンにおける持続可能性を向上させる最初のステップは、自社が持続可能性のパフォーマンスに対して何を期待するのかについての意識を高めることである。(第3章に記載されているように)多くの企業はそのために自社の行動規範を利用している。 そのうえ、さらに以下のような2つのコミュニケーションの方式がある: すでに存在している顧客-サプライヤー間のコミュニケーションを利用すること どの企業でも、サプライヤーとコミュニケーションを取るために、ある程度のプロセスや方法をすでに持っているものである。こうしたプロセスや方法には、非常に基本的なものから非常に洗練されたものまで、様々なアプローチがある。しばしば、こうしたコミュニケーションは、調達専門担当者が主導しており、サプライヤーとの関係の事業面にフォーカスしている。 共通の考え方を構築し、中核をなすメッセージを強化し、フィードバックの機会を提供するため、企業は定期的に自らが持続可能性に関して期待するところ、そしてそれに関する対話を、こうした通常のコミュニケーションに取り込む方法を検討すべきである。このアプローチではサプライヤーも、自社の要求(例えば、仕様を命じる短いリードタイムまたは多くの変化)が原因で起こる制約や緊張関係といった問題について話し合うことができる、対話のプラットホームを提供するという利点がある。話し合いの場に必要な関係者を揃えることは、ビジネスと持続可能性両方の要求事項を満たす方法を特定するのに役立つ。 持続可能性をサプライチェーンに関する話し合いの場で議題に加えること サプライヤーの話し合いの場に参加して、自らの業界において持続可能性の面で何が期待されているのかを説明することで、自社の課題と優先事項を共有する組織をより特定しやすくなる。こうした議論にはサプライヤーの他、同僚、パートナー、政策立案者、その他の幅広い範囲におけるステークホルダーを含むことができ、それによって自社の優先事項と持続可能性についての詳細を共有することができ、そして、他者のアプローチについても学ぶことができる。こうした話し合いの場は、自社のプログラムに関するフィードバックを得て改善点を特定するため、また、共通対応を必要とする組織的な課題を解決するのに必要な支持を形成するために重要な機会である。 例:日本の画像技術会社である富士ゼロックス社は、2006年に倫理調達プログラムの実施を開始した。これは、顧客からの需要に答え、同社の製造施設における環境・労働問題のマネジメントに関連して顧客が抱える懸念に対応し、サプライヤーが同社の求める基準を遵守していない場合に被る製造上及びブランド形成上のリスクを最小化し、さらに、製品と製造品質を改善するために行われた。自社のプログラム実施の第一歩として、富士ゼロックス社は2006年に自社の主要なサプライヤー9社の取締役と、「倫理的調達研究セッション」を行った。研究セッションには、中国広東省の深圳における、5日間の会議が含まれており、この会議には約50名が参加。サプライヤーの取締役、深圳地域の彼らの工場長と、深圳富士ゼロックス社の取締役を含んでいた。このサプライヤーの研究グループは、同社の倫理調達プログラムの発動を成功させるために、決定的に重要な意味を持つものであった。 新しい兆し 強い持続可能性パフォーマンスへのインセンティブを作り出すこと • サプライチェーンの持続可能性への取り組みを始める多くの企業は、持続可能性問題に関するサプライヤーのパフォーマンスがかんばしくない場合にその問題を解決することに集中している。しかし、しばしば、サプライヤーは否定的な結果より、パフォーマンスを良くするというインセンティブによって、より動機づけされる。 • 自社のサプライチェーン持続可能性プログラムが進化するにつれ、企業は一貫した強いパフォーマンスのための明確なベンチマークと報酬を確立することを考えるべきである。 • インセンティブは、以下を含む。 • 監査の実施回数を減らす • 優先サプライヤー・プログラムを確立すること • 取引を増やすこと • 認知し、褒賞を提供すること • 買い手/サプライヤーに関する戦略的企画会議へ彼らの参加を許すこと • 持続可能性改善のためにコストを共有すること • キャパシティ・ビルディング(能力構築)を支援すること • 例:マヒンドラ&マヒンドラ社(Mahindra & Mahindra Limited)は、自動車と農機具製造会社である。農機具セクターは、グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)ガイドラインによって定義される持続可能性の面で進展を示しているサプライヤーのため、年間持続可能性賞を設けている。これまで、17社のサプライヤーがGRIガイドラインやステークホルダーとの関係構築などのツールについてのトレーニングを受けている。

  36. 35 アメリカ合衆国に拠点を置く食物と飲料企業であるコカ・コーラ社(The Coca-Cola Company)は、2009年に、ビジネス成長計画における重要な要素として持続可能性を根付かせる必要性について話し合うために、全世界の主要サプライヤーをアトランタに集め、コカコーラ社の上層部経営者が会合に参加した。会議の間に、会長兼CEOは、サプライチェーンの進化に関する彼の考えを全体と共有した。それには、安い経費、速度、効率とカスタム化というものは、単に今日の市場で競争するための入り口に立つために支払う対価でしかなく、持続可能性がいかに消費者及び顧客の差別化のために重要であるかについての説明が含まれていた。トップダウン指令を課すよりはむしろ、同社は長期にわたる相互の成功を確実にするために、サプライチェーンにおける持続可能性の改善に関するサプライヤーの戦略的な助言を求めた。サミットの後で、コカ・コーラ社は、サプライヤーからほぼ200の提案を受け取ったが、それに含まれていたのは持続可能な包装、ロジスティクス、持続可能な農業、水資源管理とポートフォリオの革新に関する考えや戦略であった。コカ・コーラ社は、参加した32社のサプライヤーと、個々の行動計画と集団での行動計画を展開している。 モニタリングと監査 モニタリング・システムは、サプライヤーが、自社が用意した行動規範と期待事項に従っているかどうかに関する情報を提供するものである。モニタリング・システムは、ベースラインとなる測定値を確立して、最小限の期待事項と比較して最近と現在のパフォーマンスを評価することに効果的である。しかし、モニタリングに関してコンプライアンス・ベースのアプローチを取ることは、経費、サプライヤーの生産活動の混乱、集められる情報の正確さに対する疑念と労働者の安全性への潜在的リスクに対する懸念を生み出す結果となっている。信頼できる情報を集め、コンプライアンス監査の結果に過度に頼らないようにするためには、どのようなアプローチを採用するか、さらに、そのアプローチをどのサプライヤーに適用するか、慎重に考えるべきである。 サプライヤー自己評価 多くの企業は、新しいサプライヤーを選ぶ際の最初のスクリーニング作業として、または、どのサプライヤーがより緊密なモニタリングを必要とするかを特定するためのリスクアセスメントの一部として、サプライヤーに対して自らの持続可能性に関するパフォーマンスの自己評価を行うよう奨励している。自己評価は顧客に有用な情報を提供することができ、そのうえサプライヤーが顧客の期待事項を理解する手助けとなる。多くの企業はまた、比較的短い時間内でかつ低いコストでサプライヤーの大部分をカバーするためには、監査よりも自己評価がいいスタート地点であるという結果を得ている。 しかしながら、信頼できる自己評価は、信頼、サプライヤーの自らの組織の異なる部署から情報を収集する能力、さらにサプライヤーが何を求められどう情報が使われるのかを理解するための明確なコミュニケーションにかかっている。例えば、二重帳簿の問題は時として、パフォーマンスが低いと即刻取引を失うかもしれないというサプライヤーの懸念が原因である。 例:コンピュータ大手企業のヒューレット・パッカード社(HP)は、電子業界CSRアライアンス(EICC)のメンバーである。同社は、ハイリスクと特定したサプライヤーには、潜在的な社会・環境責任上のパフォーマンスリスクを特定するために、コンピュータ画面上の自己評価アンケートに記入することを要請している。HPは自己評価の結果を審査し、フィードバックをサプライヤーに提供する。これを受けたサプライヤーは、必要に応じて改善計画を作成し実行することになっている。サプライヤーの自己評価は、HPのリスク評価の手助けとなるだけでなく、HPのサプライヤーが、HPの行動規範を遵守するとはどういうことを意味するのかについてのHPの期待事項をよりよく知るのに役立つことが証明されている。

  37. 36 サプライチェーンの持続可能性 コンプライアンス監査は、自社の方針と期待事項に対するサプライヤーのパフォーマンスを現場で審査することである。下の図に示されるように、監査は一般的にいくつかの要素を含む。監査には、サプライヤーの持続可能性のマネジメントシステムの有効性についての情報を集める、マネジメントシステムの審査を含むこともできる。特定の業界にはいくつかの監査プロトコルがすでにあり、これを利用することができる。例えば、グローバル・ソーシャル・コンプライアンス・プログラム(Global Social Compliance Programme)は企業が自らのシステムとして採用あるいはベンチマークとして使用することのできる参照用ツールの中に、監査プロセスのベスト・プラクティスを集めている。 監査は、自社のスタッフが、または、第三者の監査会社が行うことができる。外部監査員をいつ、なぜ、どう招請するかは、自らのサプライチェーンのリスクマネジメントの全体的な目的に合わせて決めることが望ましい。外部監査員、内部の監査員は、それぞれ明らかな利点を提供し、標準的な「正しい方法」というものはない。実際、一部の企業は、両方を利用している。 外部監査員に頼るべきか、あるいは内部で監査能力を開発し維持すべきかどうかを決める際、自らの方針に照らしてパフォーマンスを評価するのにどんなタイプやレベルの専門技術(例えば環境か健康と安全専門技術)が必要か、またそれらがどの地域に存在し、キャパシティがあるかどうかについて考えなくてはならない。また、個々の資格も重要で、監査結果の統合性と品質に影響を及ぼす。相当な監査の要求事項がある企業にとって、内部対外部投資の費用、実現可能性と効果を慎重に考慮することは重要である。また、サプライヤーが監査に対してどの • ような見方をして、どのような影響を受けるか、彼らが自社の事業にとってどれくらい重要か、そして、自社がプロセスと結果についてどれくらいのコントロールをする必要があるかを考えなければならない。 • 効果的な監査は、以下を含む様々な要因によって決定される: • 工場、労働者、コミュニティに関する訪問前の準備と知識 • 労働者からの信頼を得るために、経営陣から距離を取ること(独立していること) • 審査のすべての部分において、インタビューには無作為に労働者を選ぶこと • 労働者と、彼らが快適で安全だと感じる時間と場所で、非公式な会話をすること • 工場の状況の理解を確実にするのに十分な情報を集めること • 情報を文書化し、労働者の信頼性を評価すること • 他の情報源を使って労働者から得た情報を確認すること • 常に、労働者についての守秘性と安全を保護する必要性を意識すること • 例:フランスの化粧品企業であるロレアル社(L’Oreal)はサプライヤーに対して「倫理コミットメント文書」に署名し監査を受けることに同意するよう要請している。「リスクのある」国における原料、包装、現場保安、掃除サービス、社員食堂のサプライヤーや販促品のサプライヤーだけでなく、すべての二次サプライヤーは、どこで操業しているかに関わらず、監査を受ける。他のサプライヤーは、必要に応じて、ケース・バイ・ケースで監査を受ける。監査はSA8000規格に基づいて、その土地の言語で独立した専門の第三者監査員によって行われる。実際の日付の予告なしで、監査は予め同意された30日間の間に行われる。監査には、工場、ワークショップ、事務所、現場の宿泊設備への訪問と、従業員との個々のインタビューを含む。最初の監査の費用はロレアルがすべて支払い、さらに、最終報告書はロレアルとサプライヤーとに平行して送られる。 • シューズ・衣類メーカーであるナイキ社(Nike)は、過去10年にわたり、契約工場に対して自社の行動規範のコンプライアンスを推奨するために、多くのツールの使用を試してきた。同社のモニタリング・プログラムの主要構成要素の1つは、そのマネジメント監査検証(MAV)ツールである。これは、労働時 監査の要素 施設実地調査: 明らかな不遵守を見つけるための設備の視覚的点検。 管理者インタビュー: マネジメントシステム、支払われた賃金、労働時間等に関する 議論。 サプライヤー 監査 記録レビュー: 従業員ファイル、タイムカード、健康と安全記録、その他をチェックする。 労働者インタビュー:労働条件に関し従業員の代表サンプルで。

  38. 37 • モニタリング・プロセスに参加する労働者を保護すること • モニタリング・プロセスに参加する労働者は、報復から保護されるべきである。 • 労働者は自由に発言することができ、彼らが提供する情報は特定の個人によるものだと特定されないという保証を与えられるべきである。 • 労働者は、可能な場合、自国語でコミュニケーションする手段を提供されるべきである。 • 間、賃金、福利厚生、苦情システム、組合結成の自由という5つの重要な分野におけるパフォーマンスを監査するために作られた労働評価ツールである。監査は工場の労働者管理システムと実行にフォーカスしたもので、ナイキ社のコンプライアンス・スタッフによって行われる。 • 日本の製薬会社である武田薬品工業は、製薬サプライチェーンの完全性を確実にするために、パートナー候補のリスクアセスメントを含むサプライヤー資格・モニタリング・プロセスを実行した。これは、ビジネスのパフォーマンスだけでなく品質保証、EHSと安全性の視点から行われている。このプロセスは、原料の新しいサプライヤー、契約メーカーとロジスティクス・サービス・プロバイダに適用される。そのうえ、武田薬品工業は原料のサプライヤー、契約メーカー、パッケージ業者、ロジスティクス・センターとディーラーを対象に定期的な監査を行う。武田薬品工業の社員によるモニタリングと監査は、時々は外部監査員のサポートを得ることで補われている。武田薬品工業の設定する規則と期待事項を遵守しているかどうかは、アンケート、施設視察、方針のチェック、標準操業手順、記録とインタビューによってチェックされる。特定したリスク事象が現実になる可能性とその程度が審査され、是正と予防のための行動を監視する。 • 是正とサプライヤーのキャパシティ・ビルディング • サプライチェーンの持続可能性は、進化中の考え方である。そして、それは継続的な改善を定義し動機付けるアプローチが重要であることを意味する。このアプローチは、サプライヤーのマネジメント能力に投資をすること、さらに遵守していない場合の是正方法の両方を含むべきである。 • 是正には、次のような活動を含むことができる: • サプライヤーと協力し、明確に定義した理にかなった時間枠内でコンプライアンスを達成するために是正行動計画をつくる。 • 遵守していないサプライヤーとの定期的なコミュニケーションを通して、改善を推奨する。 • 基準と期待事項のレベルを徐々に上げるために、ロードマップを定める。 • 「許容度ゼロ」である問題に関する深刻な欠点が、度重なる通知にもかかわらず是正されない場合に、サプライヤーとの関係を終了する。企業は、許容度ゼロとする問題を特定し、前もって自らの選択と遵守しない場合の処置を、サプライヤーに説明すべきである。企業は、是正のためのプロセスと、継続して遵守をしない場合いつの時点で関係の終了となるのかを、前もって説明すべきである。 • 是正の要求事項をサプライヤーに非常に明確に伝えること、さらに、遵守しない場合、あるいは継続的なパフォーマンスの不良には、確立された時間枠と処置を設けることは、重要である。 • 例:オランダの電子機器会社であるフィリッ • プス社(Philips)は、以下の5本の柱をもとに作り上げられるサプライヤー持続可能性関係プログラムを実行した:要求事項を設定すること;理解と合意を構築すること;EICCチェックリストを使用した監査によって、リスクがあると特定したサプライヤーをモニタリングすること;問題の解決のためにサプライヤーと協働すること;さらにステークホルダーを関与させること、である。監査の間に違反が見つかった場合、30日以内に是正行動計画(CAP)について合意する。フィリップス社は、必須の措置、マイルストーン、責任を規定し、CAPの定義と計画の進展の監視においてサプライヤーと協働している。フィリップス社のサプライヤー持続可能性担当者は、毎月のフォローを行い、必要に応じて責任調達部長に必要事項をあげることができる。 • 英国のダイヤモンド会社であるデビアス社(De Beers)は、ダイヤモンドの供給経路全体を通して社会、雇用、事業、健康、安全、環境の問題を解決するための、ベスト・プラクティス原則(BPP)保証プログラムを開始した。デビアスは原則に照らして宝石メーカーと小売業者のパフォーマンスを評価し、重大な違反があった場合、メーカーは問題を解決するためにCAPの提出が義務付けられている。CAPがきちんと継続的に実行されていることを確実にするために、証拠がオンラインで提出されるか、第三者監査員が現場を再度訪問することになっている。CAPプロセスは、継続的な改善と、問題となる分野において持続可能な解決策

  39. 38 サプライチェーンの持続可能性 が実行されていることを確実にするための仕組みを提供する。デビアス社は、CAPプロセスにおいて相談を受け付け、問題をより効率よく解決できるよう過去の経験に基づきアドバイス、ベスト・プラクティス、及び情報を提供している。さらに、業界に共通の、また、地域に特有の問題点を話し合い協力しあうためと、共通の問題に対して持続可能な解決策を見出すために、メーカー達自身が発起人となり、メーカー委員会が結成されている。 食品飲料会社であるネスレ・インド社(Nestle India)は、品質問題と食品安全性問題を克服し、より広範囲で柔軟な供給ベースを作り出すため、さらに輸入への依存を減らすことによってコスト削減を成し遂げるため、2005年にサプライヤー開発の専門部署を設立した。同社は、トレーニング・プログラムを通して、また、安全性と品質の問題に対処し、サプライヤーのマネジメントシステムと製品を改善するために技術支援をサプライヤーに提供することで、サプライヤーとの協働に投資している。これらのサプライヤー開発への取り組みの結果、ネスレ・インドは以前に輸入した12の原料について現地ソースを確保し、10件について単独のサプライヤーに依存するのを避け、ネスレの仕様を満たすことができる70以上の新しいインドのサプライヤーを発掘し、5,100万米ドルを節約することができた。2009年内に、ネスレはバングラデシュ、ブラジル、インドネシア、イラン、マレーシア、ロシアと南アフリカでも同じイニシアティブを実行している。 • 是正への取り組みは、サプライヤーのマネジメント能力を構築する努力と組み合わせた場合に、最も高い成功を収めている。キャパシティ・ビルディングは、サプライヤーの従業員のためのトレーニングから、労働者のためのホットラインと資源ネットワークの確立まで、様々な取り組みを含む。例えば、様々な実践的ワークショップ、トレーニング、工場におけるコンサルテーションを通して、国際労働機関(ILO)の工場改善プログラム(FIP)は、工場の競争力強化、労働条件の改善、さらに、管理者と労働者の間の協働とコミュニケーションの強化を手助けする。 • 例:HP社は、EICC行動規範がサプライヤー工場で管理者だけでなく労働者にも周知されることを確実にするために、地元の労働者トレーニングを行うNGOの支援を得て、サプライヤー2社と労働者トレーニングのパイロット・プロジェクトを完了した。トレーニングは4,000人以上の労働者に対して行われ、労働者が自らの労働権を理解する手助けとなるとともに、彼らに自らの労働環境に関する懸念について伝えるコミュニケーション・チャンネルを提供した。 • トレーニングは、以下の項目を対象とした: • 労働権に関する意識を向上させる • 労働者ホットラインを確立して、従業員にホットラインの管理の仕方を教える • 労働者代表委員会への個別対応指示によって労働問題を解決する • コミュニケーション・プログラムを編成するためのカウンセリングのスキルと技術 •  このパイロット・プロジェクトは、上級マネジャーが労働者の要求や不平を理解するのに、労働者のフィードバックがどのように役立つかを表しているとして、NGOの称賛を受けた。HPはパイロット・プロジェクトを他の工場にも適応させ、2010年に類似したプログラムを引き続き実行する予定である。 • BSRの中国トレーニング・イニシアティブ(CTI)では、100万人以上の労働者を雇用している工場のマネジャーに対して実践的学習の機会を与え、労働条件を改善するためのマネジャーの能力とコミットメントを強化するためのツールを開発した。CTIは、買い手とメーカーにとって経営資源の働きをし、企業責任と持続可能性に関する課題に取り組み、買い手の期待事項に応えられるようにするためのスキル、ツール、経営資源を用いて、買い手の期待とサプライヤーのニーズとを橋渡ししている。 サプライヤーの キャパシティ・ビルディングの機会 不遵守の主な領域においてサプライヤーまたは労働者の トレーニングを 提供する 学習とキャパシティ・ビルディングを監査プロセスに統合する サプライヤー キャパシィ・ビルディング サプライヤーの 学習ネットワークを 作成または支援する サプライヤーが独自 にアクセスし、利用できるツールの提供

  40. 「持続可能なサプライチェーンによって、我々は、製品・サービスを生産し、顧客に提供する際に生じるリスクを減らすことができ、その結果、我々の事業は利益を得ることができる。また、サプライヤーとのより緊密な関係を発展させる機会を得ることができ、企業にとって長期的な利益となる。」「持続可能なサプライチェーンによって、我々は、製品・サービスを生産し、顧客に提供する際に生じるリスクを減らすことができ、その結果、我々の事業は利益を得ることができる。また、サプライヤーとのより緊密な関係を発展させる機会を得ることができ、企業にとって長期的な利益となる。」 エリク・エングストローム(Erik Engstrom) リード・エルゼビア経営最高責任者

  41. 40 サプライチェーンの持続可能性 • 例:リーバイ・ストラウス社(Levi Strauss & Co)は、自社のエンゲージメント規定(TOE)を実行するのに役立ついくつかのトレーニングを開発している。これには、工場、監査役と、工場における労働条件に関心のある外部のステークホルダーの参考資料としての詳細なTOEガイドブックを含む。 • 二次サプライヤーとの関係を構築すること • 先に述べたように、企業は時として、サプライチェーンにおいて一次またはそれ以上離れたサプライヤーにかなりのリスクが存在していることを発見する時がある。例えば、食品会社・農業会社は、彼らが直接はめったに買わない農場において、児童労働という深刻な問題に直面した。電子機器産業は、製品に使われる鉱物のために、紛争地域における採鉱という問題を抱えている。 • 二次サプライヤーと関係を構築することには、前述の課題に加え、サプライチェーンにおける透明性の欠如や企業の力不足などを含む、その他の複雑な問題が付随してくる。 • これらの障害を克服するために、企業は以下を含むいくつかの戦略を進めている: • 業界における協働への参加。他の企業と協働することによって、自らの二次サプライヤーに対する影響力を大きくするために、力を結集することができる。サプライヤーとの関係構築に必要なコストや経営資源を共有することもできる。 • 公共政策への参加。多くの企業はまた、自らの力の欠如を、持続可能性問題の法的な規制による是正を求めることで克服しようとする。 • サプライチェーンの最適化。個々の企業はまた、より小規模なサプライヤーを一つにまとめ、仲介者を減らすことによって、サプライチェーンを短くするための処置を取ることもできる。これによって、小規模なサプライヤーが得る収益を増やすこともできる。 • 例:カカオのサプライチェーンに関してネスレ社の発表しているビジョンは、カカオ農家が収益性のある農場を運営でき、環境を尊重し、クオリティ・オブ・ライフが保たれ、農家の子供達が教育を受けカカオ栽培をきちんとした職業として見るようになる手助けをすることである。しかし、多くの場合、ネスレ社はサプライチェーンにおいて農家から5層以上離れたところにいる。カカオ農園における児童労働の課題を解決すべく、ネスレ社は他企業、世界カカオ財団、国際カカオイニシアティブとともに、コートジボアールとガーナの政府を巻き込んで、産業界が支援する認証プログラムを設立した。このプログラムは、カカオ農園における児童労働のための基準に照らし合わせた規定とモニタリングに加え、農業経営の実態の改善と、農家にカカオの収益がより多く行くようにするためのサプライチェーンの簡素化、さらにコミュニティ開発支援のためのトレーニングを提供している。 新しい兆し サプライヤーにグローバル・コンパクトへの参加を促すこと 企業は、自社のサプライヤーが彼ら自身で持続可能性を追求するように奨励すべきである。その1つの方法として、グローバル・コンパクトと世界中にあるローカル・ネットワークに参加するのを奨励することが挙げられる。グローバル・コンパクトへの参加は、サプライヤーが持続可能性問題に真剣に取り組んでいる証しである。 例:フランスの電気部品・電気機器企業であるシュナイダー・エレクトリック社(Schneider Electric)は、2005年以降、自社のサプライヤーと下請企業に対し、グローバル・コンパクトに参加するよう要請している。グローバル・コンパクトへの参加は、シュナイダー社の主要サプライヤーになるための条件の一つとなっている。シュナイダー社は、2010年内に自社の調達の60%をグローバル・コンパクトを支持するサプライヤーから行うようにするという目標を設定した。2009年の終わりには、調達の33%がグローバル・コンパクトに署名したサプライヤーからのものとなっており、シュナイダー社のサプライヤーのうちの1,153社がグローバル・コンパクトに署名していた。同社の調達部は、これらの関連事項に関してサプライヤーからの協力をより得られるようにグローバル・コンパクト原則についてトレーニングを受けてきていた。さらに、同社はどのサプライヤーが進捗状況報告(COP)を怠ったためにグローバル・コンパクトのリストから外される危険性があるかを注意深くモニタリングする。

  42. 41 新しい兆し 持続可能性マネジメントシステムとパフォーマンスの監査から透明性確保へ移行する • サプライヤーとの関係構築における究極の目標は、サプライヤーが持続可能性に関して当事者意識を持つようにすることである。これは、サプライヤーが自らのミッション、戦略、そして、意思決定に、責任ある労働・環境条件への投資の価値、影響及び収益を統合した時に起こるものである。 • 自社のサプライチェーンにおけるリスクと課題を理解するために、モニタリングと是正は必要不可欠であるが、モニタリングによって達成できることには限界もある。モニタリングは、問題の根本にある原因を特定するため、または改善のための将来的な期待事項を確立する、あるいは現れつつある問題に対して注意を共有するためには、効果的なツールではない。これらの点は多くの場合、競争的優位やその他の事業価値を生み出す源である。 • 企業とサプライヤーは、どちらも、サプライヤーが持続可能性問題に対して当事者意識を持つことを可能にするのに同等の役割を担っている。 • 具体的には、企業は以下のようにすべきである: • 関連する事業情報をサプライヤーと共有する。 • 長期の関係を築く。 • 持続可能性のためのインセンティブをつくる。 • 持続可能性マネジメントシステムの改善を期待する。 • 透明性を奨励し、報酬を与える。 • 自社の事業習慣が、サプライヤーが持続可能性に関する期待事項に応える能力にいかに影響を与える可能性があるかに対して敏感になる。 • 上記同様に、サプライヤーは以下のようにすべきである: • 執行役個人のコミットメントを示す。 • 持続可能性を戦略的計画と評価に統合する。 • 継続的改善を示す。 • CSRに関する課題と進展を能動的に企業に伝える。 • サプライチェーンにおける持続可能性のリーディング・カンパニーは、持続可能性マネジメントシステムを開発することでサプライヤーの持続可能性問題に対する当事者意識を構築しようとしている。一部の企業は、認識を向上させるために持続可能性マネジメントシステムの評価を監査手順に組み込み始めている;また、その他の企業の中には持続可能性マネジメントシステムの設計についてサプライヤーにトレーニングやコンサルティングを提供しているところもある。そしてさらに、一部の企業は、インセンティブを増やし監査を減らすことで、持続可能性マネジメントシステム開発に対して継続的な改善アプローチを強調する改善の階段を設けている。 • 例:マヒンドラ&マヒンドラ社(Mahindra and Mahindra Limited)は、いくつかの地域でマネジメント能力を向上させるために、選ばれたサプライヤーと協働している。同社の農機具セクターは、品質問題に対処するサプライヤーの能力を構築する補助的措置として、マヒンドラ黄色ベルト(MYB)事業パートナートレーニング・プログラムを確立した。このトレーニング・プログラムは、2日のトレーニング、学習目的が達成されたことを確かめるテスト、そして、学習したことを実際に適用するための、サプライヤーが選びマヒンドラの認めるフォローアップ・プロジェクトを含む。 • フランスの通信企業であるアルカテル-ルーセント社(Alcatel-Lucent)は、広範囲に使用でき、サプライヤーのCSRマネジメントシステムのパフォーマンスを批判的に分析できる評価アプローチを開発した。その意図は、従来の監査方法を越え、より肯定的なアプローチを開発することであった。同社は内部の経営資源をより戦略的なサプライヤー開発活動に集中させる一方で、2008年にエコヴァディス社(EcoVadis)とパートナー協定を結び、サプライヤーのCSRマネジメントシステムのより深い評価を可能にするためにウェブベースの協働プラットフォームを開発した。評価は、国連グローバル・コンパクト、GRIガイドラインやISO 26000ガイドラインの草案を含む国際的なツールをベースとしており、150の製品カテゴリのためにカスタマイズされた21のCSR指標を含んでいた。サプライヤースコアカードは、(i)サプライヤーの自己申告した情報、(ii)文書監査、(iii)複数のステークホルダーによる「360度監視」を含むいくつかのインプットを組み合わせたものである。2009年には300のサプライヤー評価が行われ、半分以上は改善計画または現場での監査などの付加的アクションを伴う結果となった。評価は、持続可能性をどんな風に考えるべきかということ、さらに、弱点を改善するために提案された行動に関して、サプライヤーとの実りの多い議論を引き起こした。

  43. 42 サプライチェーンの持続可能性

  44. 43 第6章 役割と責任の決定 サプライチェーンの持続可能性に関する戦略は、サプライチェーンに影響を与える事業戦略と一体化され、密接に連携されるものでなければならない。 組織内部での連携 多くの企業におけるサプライチェーンの持続可能性にとって最も解決の困難な課題のひとつは、調達専門担当者の業務上の目的と、持続可能性の目的やグローバル・コンパクトへのコミットメントとの間に解消困難な葛藤が存在するということである。この葛藤は、サプライチェーンの持続可能性と調達管理を担当する社員との間での異なった目標として現れてくる。 内部連携が十分でないときには、サプライヤーによるサプライチェーンの持続可能性に関するパフォーマンスに対してマイナスの効果をもたらしかねない。例えば、最終段階において供給量を変更することは、もしサプライヤーがタイトになってしまった予定に合わせるために作業者に時間外労働の増加を強いることになると、労働条件を悪化させるような著しい時間的圧力をかける結果となる。 サプライチェーンの持続可能性プログラムの実施を成功させるためには、下図に示すような3段階の内部的責任が必要となってくるのである。 ガバナンスと監督: 経営幹部によるリーダーシップと取締役会 経営幹部や取締役会のコミットメント、監督、支援は、サプライチェーンの持続可能性に正しい基調と方向性を与えるためにとても重要なものである。経営幹部は、サプライチェーンの持続可能性に関する企業のビジョンとそれに対する取り組みに関して、具体的なマイルストーンと達成度評価基準を示すことにより明確な意思を示す必要がある。経営幹部による文書上あるいは会話によるコミュニケーションは、ビジネス・マネジャーと調達専門担当者の持つ優先課題をこれらのマイルストーンと一元化させ、事業を進める上で持続可能性が重要であることを強調する助けとなるであろう。経営幹部や取締役会は、サプライチェーンの持続可能性の目標に関する進捗についても定期的に確認する必要がある。この経営幹部による監督は、企業全体の従業員の責任意識を強固にするであろう。さらに、経営幹部は、企業内のサプライチェーンの持続可能性に関する優先事項、成功例、残された課題に関して、企業内部における定期的な情報更新を行う必要がある。 サプライチェーンの持続可能性の内部的責任の要素 経営者のリーダーシップ: コミットメント、監督、支援 ビジネス・マネジャー (各事業部門の管理者): 部門横断的な調整 調達専門担当者: プログラムの実行

  45. 44 サプライチェーンの持続可能性 • また、経営幹部は、調達専門担当者がサプライヤーと適切なコミュニケーションを保てるように、必要に応じてサポートをすべきである。サプライヤー側の経営幹部は同等の役職相互での交流を歓迎するであろうし、自社の最高幹部による関与は、自社においてサプライチェーンの持続可能性の問題が深刻にとらえられていることを証明する助けとなるであろう。第3章で議論されているように、経営幹部たちは行動規範の伝達という役割を担っているのである。さらに、彼らは、高いパフォーマンスを上げるための刺激を与える役割として、サプライヤーとのミーティングに出席するということもできる(第5章参照)。 例:HP社のサプライチェーンにおける社会的責任と環境責任(SER)のガバナンスシステムにおいては、HP社におけるあらゆる関連事業と関連業務に関して、報告と責任が明確化されている。そして、HPにおけるすべての事業部門が、サプライチェーン担当役員会を通してサプライチェーンSERプログラムに賛助し支援している。この担当役員会は毎月開催されており、HP執行役員会に直接結果報告がなされている。 HP執行役員会 (CEOと全てのHPの業務部門長) ステイクホルダー・ アドバイザリー 評議会 サプライチェーン担当役員会 (HPの全業務部門のサプライチェーン上級副社長) サプライチェーンSERプログラム  (サプライチェーン担当役員会の 支援のもと) 調達協議会 (HPの全業務部門からの調達に関するリーダー) 業務とその実施の支援 ・社会・環境責任部門担当者連絡会(担当者はサプライチェーン担当役員会により指名) ・調達協議会 ・サプライヤー関係管理マネジャー 監査チームメンバーは以下から: ・グローバル調達サービス部門 ・環境・安全・衛生部門 サプライヤー関係マネジャー サプライヤー企業

  46. 「ネスレ社(Nestle)は、社会と株主とに対する価値を生み出したときに初めて、長期にわたる事業の成功を達成できると信じている。私たちは、これをCSV(Creating Shared Value; 共益の創造) と呼んでいる。私たちは、自らのバリューチェーン(価値連鎖)を分析した結果、社会と共同して価値を最適なものとする可能性が最も高いのは、水、農村開発、栄養摂取といった領域であると確信した。我々は、供給の大元となる54万人に上る農業従事者と緊密に活動することによって、彼らの生産性向上や、貧困からの脱出の一助となることができるのである。そのかわりに、彼らからさらに良質な最終産物を得ることになり、これが消費者の利益、究極的には私たちの事業の利益にも結びついていくのである。私たちは、他の企業もこの取り組みを取り入れることを推薦するとともに、この新しいガイドがベスト・プラクティスの普及に役立つことを望むものである。」 ピーター・ブラベック・レッツマット (Peter Brabeck–Letmathe) ネスレSA  取締役会会長 

  47. 46 サプライチェーンの持続可能性 ビジネス・マネジャー間の部門横断的調整 企業内部における異なる部門からの競合する期待事項は、サプライチェーンの持続可能性にマイナスの影響を与えることがある。この持続可能性の持つ目的を堅持し、サプライヤーがその期待に応えられるようにするためには、広い範囲における種々な部門間の連携が必要となる。調達専門担当者、製品企画、事業開発、ロジスティクス、マーケティング、販売といったすべての分野がサプライチェーンの持続可能性にインパクトを与えるのである。下図に示されているように、企業はどのようにしたら部門を超えた部門代表者の連携をとることができるかを考えなくてはいけない。こうすることによって、このインパクトの内容を正しく把握するとともに、これが企業事業の意思決定におけるどの部分で生じてくるかを明確にできるのである。 それぞれが責任を負い、経営幹部によって設定されたビジョンとマイルストーンを実行に移し、その目的を果たすためには、企業内における個々の役割と責任が明確に規定されていることが重要となる。こうした目標は、動機と努力の結果によって後押しされるべきものなのである。 また、持続可能なサプライチェーンを担当する社員は、企業全体を通じて機能している戦略企画プロセスに対して、必要な情報を提供する必要がある。この持続可能性を企業における意思決定に根付かせるためには、サプライチェーンでの影響を及ぼすそれぞれのチームに対して、持続可能性に関する専門的知識を定着させるか、若しくはそれを利用可能な状態にしておく必要がある。 例:南アメリカ全土において農業関連産業をビジネス展開しているロス・グロボ・グループ(Grupo Los Grobo)では、CEOが先頭に立ち、調達部門と外部委託部門の管理層によって組織されたサプライチェーン委員会が設置された。それ以外の委員会参加者としては、同社の各地域においてサプライヤー(商品生産サービスの外部委託、ロジスティクス、農産物提供、その他)と戦略的関係を持っている指名代表者たちが含まれる。この委員会は、戦略計画の企画を通し 機能横断的な持続可能性の統合5 調達管理 調達管理 設計 設計 開発 開発 生産 生産 ロジスティクス ロジスティクス マーケティング マーケティング 販売 販売 持続可能性 持続可能性 統合された構造 分断された構造 5 BSRから引用

  48. 47 調達専門担当者にとってのサプライチェーンの持続可能性の妥当性 「調達管理における決定は、事業の業績と持続可能性に直接的な影響を持つ。したがって、調達専門担当者は、関連するステークホルダーとともに組織のなかで、企業の持続可能性に関する取り組みを進展させるための論点を提起する責任を負うことになる。これには、持続可能性に関する戦略、サプライチェーン全体を通じて採用されている種々の企業のイニシアティブや、組織とサプライヤー企業群との間で交わされる正式な方針の確立も含まれている。」 -サプライ・ロジスティクス・マネジメント協会 て、個々の目的と目標を確立し、設定する責任を負っている。これらの目標はチェックを受け、必要であれば毎年設定される。結果は分析され、新たな戦略計画が策定される。戦略計画に組み込まれた最近の手段のひとつとして、UNIDO(国際連合工業開発機関)の「サプライヤー開拓プラットフォーム」の利用がある。この委員会では、5千件を上回る中小のサプライヤ―と相互協力を進めている。 調達専門担当者による実行 自社の構造によっては、サプライヤーと最も直接的な接触のある社内グループの社員(このガイドを通じて「調達専門担当者」として参照)は、サプライチェーンの持続可能性に関する期待事項をサプライヤーに伝えて、サプライヤーが自社の期待事項に沿えるよう維持する役割において、最も責任を負うことになるであろう。 調達専門担当者は、サプライチェーンの持続可能性に変化をもたらすという意味で、三種類の主要な手段を持っている。 1. 持続可能性に関して相対的に高い能力と実務慣行を持つ新規サプライヤーを選択すること。 2. 期待事項を設定しそれを高め、パフォーマンスの継続的改良を確かなものにするために既存のサプライヤーに働きかけること。 3. 購買を集約したり、取扱品目やサービス項目を段階的に縮小させるなどして、調達の決定に関して、持続可能性の考慮事項を統合すること。 サプライヤーの選択 サプライヤー選択に当たってのデュー・ディリジェンスのプロセスにおいて、企業は、商業的な基準に、社会的・環境的なマネジメントとそのパフォーマンスの基準を加えることができる。これによって、調達専門担当者は、サプライヤーの評価においてその全体像を把握することができ、持続可能性に伴うリスクを自社に持ち込んでしまうようなサプライヤーとの関係を避けることができる場合もある。標準的な方法は、方針と行動に関する基本情報を引き出すような、サプライヤーの自己評価に関する質問に対する回答を調査するものであり(第5章において詳説)、これは、さらに監視調査が必要なサプライヤーの優先順位付けを行うためのリスク評価として使用することができる。 継続的改善に関する既存のサプライヤーとの関係を構築すること 既存サプライヤーも、自社の持続可能性に関する期待事項に応じる必要があるだろう。対象となるサプライヤーの持続可能性マネジメントシステムの状況にもよるが、そのサプライヤーは、パフォーマンス改善には時間のかかる従業員や組織への投資が必要かもしれない。調達専門担当者は、下記事項を基本として、既存サプライヤーとともに、サプライチェーンの持続可能性に関する継続的な改善に取り組まなければならない。 ・ 双方向の透明性。企業としては、持続可能性のパフォーマンスに影響を与える情報に関して、オープンにかつ誠実に共有することをサプライヤーに求めるべきである。その代わりに、企業はサプライヤーに対する方針や業務の変更を前もって伝えるだけでなく、サプライヤーへ期待事項と指導内容(ガイダンス)を明確に示しておく必要がある。 ・ 実現可能なスケジュール。企業は、何が最小限の要求事項であるか(例えば、法令コンプライアンス)、最低条件を超える改善のための現実的なスケジュールは何かを注意深く検討すべきである。 ・継続的改善。企業は、サプライヤーとともに、持続可能性のための経営的優位性に向けて取り組むことができ、同時にこの場合における優位性の意味を十分に定義付けしておくべきである。さらに、企業が必要な経営資源を提供することによって、サプライヤーが対応に必要な経営的能力を向上させることを支援することもできる。 ・パートナーシップ。 企業は、サプライヤーとの双方の意思決定者の間でオープンなコミュニケーションを取ることにコミットするべきである。これにより顧客である企業は役割や責任を明確にし、相互に納得できる目標を作りそれを達成するためにサプライヤーと協働することができる。 例:アメリカのシューズメーカーであるティンバーランド社(Timberland)は、サプライヤーとの取引に関して、コンプライアンスを基本とした取り組みから従業員を中心とした協働的な取り組みへと変えていった。つまり、この企業では、サプライヤーの工場オーナーに対し違反事項に関する対応リストを作成してその解決を任せ、その改善状況をチェックしていく代わりに、工場における作業環境の問題に関する根本的原因を把握するために、工場の経営層や従業員とさらに密接に協力している。この新しい取り組みによって、従業員はこのプロセスの中心に位置することとなった。今では、従業員やその代表者たちはサプライヤー評価のオープニング会議やクロージング会議に招待されることとなり、評価プロセスの一環として従業員に対するグループインタビューも行われている。さらに、従業員の行動規範委員会が設置され、行動規範の維持発展のための教育と継続的な関与がなされている。

  49. 48サプライチェーンの持続可能性 • フォルクスワーゲン・グループ(Volkswagen Group)では、4つのキー項目を持つ「サプライヤーとの関係における持続可能性」プログラムが設定された。これらのキー項目とは、標準要求事項、リスクの早期発見、調達業務の一元化とモニタリング、サプライヤーの能力開発である。このプログラムを通して、すべての調達担当スタッフは、サプライヤーの欠点、改善の可能性についての概要説明を受け、それらに対して敏感になる。さらに、サプライヤーは、要求事項に対応するための指導や直接的な支援を提供される。サプライヤーは、Eメールアドレスにコンタクトするか、自己評価調査票への書き込みを行ったりすると、環境保護、人的資源管理、健康と安全、購買の部門に加えて品質保証部門からなる「特別専門チーム」によって支援が提供される。また、調達プロセスにおける標準的な措置として、サプライヤーによる情報の利用も可能となっている。 • 持続可能性考慮事項の統合化 • 企業は、持続可能性を統合し、持続可能性とビジネスの推進力の間で表面化した緊張状態を乗り越えることにおいて、調達専門担当者を支援することのできる多くの手段を講ずることができる。多くの企業においては、リスク、品質、コストといった他のビジネスの要素と明確な関連付けを行いながら、人権や環境への影響といった持続可能性に関する論点に関して助言を行うことを始めている。また、統合的な意思決定をサポートするために、サプライヤーの事業業績とともに持続可能性に関するパフォーマンスについての情報を表すサプライヤー・スコアカード(得点表)を用いた試みも実施している。さらにリーディング・カンパニーにおいては、サプライヤーに矛盾する情報を与えないように、調達部門内に持続可能性に関する担当社員を配置している。 • 例:スターバックス社(Starbucks)においては、購入担当者はサプライチェーンの持続可能性に関する問題とそれに対する方法について教育され、さらにスターバックス社に対して報告されたサプライヤーの持続可能性に関するすべての評価報告書にアクセスすることができる。サプライヤーとの全てのコミュニケーションは、購買担当者によって行われる。同社の持続可能性サプライチェーンの専門集団であるスターバックスの倫理的調達チームは、サプライヤーの評価と改善方法に関して、購買担当者との定期的な情報交流を実施している。トレーニング、情報アクセス、コミュニケーションの全体が、サプライヤー持続可能性を購入の意思決定に組み込ませるための手段として調整され、購入担当者に対して提供されている。 新しい兆し サプライヤーの基礎の最適化 サプライチェーン最適化を達成するということは、調達・物流プロセスにおける廃棄物、重複作業や非効率部分の排除を含む多くの目的を達成させるための基本的なビジネス・マネジメントのツールを持つことを意味する。持続可能な調達において今後期待されることは、持続可能性に対する考慮を意思決定プロセスの一部に統合するということである。このような統合化が完了すると、企業のサプライヤーは、社会、環境に関する問題に対してより良好なパフォーマンスを示すこととなる。

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