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介護保険の改革. 鈴木亘. 1. 介護保険制度の概要. (保険者、規模) 日本の介護保険制度は大まかにいうと、 40 歳以上の全住民から介護保険料を徴収し、原則 65 歳以上で要介護状態になった場合に、介護保険サービスを 1 割の自己負担で受給できるという制度 保険の運営者は、基本的に各市町村である。 介護保険の給付費は、 2006 年度現在で 6.6 兆円であるが、実はその財源の半分は公費により賄われており、保険方式と税方式を混合した「保険制度」であるという特徴がある。. (保険料、公費負担)
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介護保険の改革 鈴木亘
1.介護保険制度の概要 • (保険者、規模) • 日本の介護保険制度は大まかにいうと、40歳以上の全住民から介護保険料を徴収し、原則65歳以上で要介護状態になった場合に、介護保険サービスを1割の自己負担で受給できるという制度 • 保険の運営者は、基本的に各市町村である。 • 介護保険の給付費は、2006年度現在で6.6兆円であるが、実はその財源の半分は公費により賄われており、保険方式と税方式を混合した「保険制度」であるという特徴がある。
(保険料、公費負担) • 保険料の徴収ベースは、65歳以上を第1号被保険者、40-64歳を第2号被保険者として負担が分けられている。 • 前者は年金給付額からの天引き、後者は医療保険と合算して徴収 • それぞれの負担する額は、マクロ的には、1号被保険者と2号被保険者の人口割合(約1:2)に応じて給付費のそれぞれ17%と33%(合わせて50%)を負担することになっている。
第1号被保険者の保険料負担は、現在、平均的には月当たり3,300円であるが、住んでいる自治体、そして本人の所得によって大きく異なる。第1号被保険者の保険料負担は、現在、平均的には月当たり3,300円であるが、住んでいる自治体、そして本人の所得によって大きく異なる。 • 自治体ごとに決められている保険料基準額を元に、収入によって5段階の保険料(最大基準額の1.5倍、最小基準額の0.5)が徴収される。 • 保険料基準額も、自治体の運営状況によって地域差がある。 • 一方、第2号被保険者の保険料負担は、現在、賃金収入の約1.0%の保険料率が課されている。
(認定) • 介護保険で介護サービスを受けられるのは、基本的には65歳以上で、介護が必要と認定された要介護者である 。 • 要介護者は、まず、保険者に申請を行う。 • すると、市町村職員や後述するケアマネージャーが派遣され、79項目の調査表について日常生活動作にかかる時間や状況の調査を行い、機械的にコンピューターによる要介護度の判定を行う(1次判定)。
ただ、コンピューターによる判定では、認知症などについての負担状況が勘案しにくいため、医師による意見書も判断材料とされた後、保険者に設置された介護審査会において最終判断(2次判定)が行われて、申請者に通知される。ただ、コンピューターによる判定では、認知症などについての負担状況が勘案しにくいため、医師による意見書も判断材料とされた後、保険者に設置された介護審査会において最終判断(2次判定)が行われて、申請者に通知される。 • 通知される要介護認定の区分は非該当(自立)・要支援(1,2)・要介護(1-5)に分けられる。要介護度によって、利用可能なサービスの上限額が設定されている。
その後、介護サービス計画(ケアプラン)という介護サービス利用のスケジュール表を作成しなければならないが、これは通常、本人や家族ではなく、市町村から配布される一覧表の中から選ばれたケアマネージャーが行うその後、介護サービス計画(ケアプラン)という介護サービス利用のスケジュール表を作成しなければならないが、これは通常、本人や家族ではなく、市町村から配布される一覧表の中から選ばれたケアマネージャーが行う • ケアマネージャーは、要介護者の状況に合わせてケアプランを作成し、利用業者の選定から発注までを実施する 。 • もちろん、利用者本人や家族がケアプランを作成してもよい。ケアプランの作成には、1割の自己負担はかからない。
(サービスの給付) • 利用できるサービスの種類は、在宅サービスと施設サービスの2つに分かれる。 • 在宅サービスは、訪問介護(ホームヘルプサービス)、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、通所介護(ディサービス)、通所リハビリテーション(ディケア)、福祉用具貸与、短期入所生活介護(ショートステイ)、短期入所療養介護(ショートステイ)、居宅療養管理指導のほか、擬似的な施設介護である痴呆対応型共同生活介護(グループホーム)、特定施設入所者生活介護(有料老人ホーム、ケアハウス等)が存在する。
施設介護は、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設(老人保健施設)、介護療養型医療施設(療養型病床)の3種類の施設が存在しており、後者ほど医療的なケアが実施される施設となっている。施設介護は、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設(老人保健施設)、介護療養型医療施設(療養型病床)の3種類の施設が存在しており、後者ほど医療的なケアが実施される施設となっている。 • 各サービスは時間当たりの利用料が、「介護報酬単価」として固定価格で設定されており、その1割を利用者が自己負担をし、残りの9割を保険者が支払う。
新予防給付と介護給付(予防給付は要支援者と要介護1の一部)新予防給付と介護給付(予防給付は要支援者と要介護1の一部) • 施設サービスと居宅(在宅)サービス、居住系サービス • 地域密着型サービス(介護予防事業、包括的支援事業、任意事業)、居宅介護支援(ケアマネジメント)、介護予防支援(介護予防ケアマネジメント) • H18年4月から3施設の部屋代、食費徴収、経過措置、低所得者上限あり。
(上乗せサービス・横だしサービス) • 上乗せ・・・支給限度額を超えた分を市町村が独自に条例で給付。 • 横だし・・・介護保険以外のサービス、寝具感想、移送サービスの給付 • いずれも第1号被保険者の保険料でまかなう。
(介護報酬単価) • 地域によって1単位あたりの金額が異なる(生活保護、措置費と同様) • 介護報酬は一種の包括払い方式 • 介護報酬は値段の上限。 • 介護報酬請求の審査支払いは、都道府県の国民健康保険連合会が担当
(サービス提供業者) • 介護保険施設、居宅サービス提供業者、居宅支援事業者の種別 • 都道府県知事の指定、許可を受けなければ、サービスは保険給付の対象とはならない。 • 介護保険施設は営利法人は設置できない。特養は自治体か社会福祉法人。老健は、自治体か、社福か医療法人。療養型病床群は、自治体か医師か医療法人。
居宅サービス提供事業、居宅介護支援事業はすべての法人の参入が認められる。当然、営利法人も可能。居宅サービス提供事業、居宅介護支援事業はすべての法人の参入が認められる。当然、営利法人も可能。 • 法人格を持たないものは事業は出来るが指定はうけられない。給付を市町村が認めた場合には、償還払い。 • 指定や許可を受けるには、人員基準、設備・運営基準を満たすことが必要。指定や許可は6年ごとの更新制。サービス内容や運営事業について公表が義務付け。
(特徴) • 日本の介護保険は、ドイツ(独)やオランダ(蘭)の制度に比較的に近いものだと言われているが、独・蘭の制度と比較してみると(表3)、いくつかの特徴があることが分かる。 • 第一に、独・蘭では、被保険者の対象となるのは全住民であり、若年・障害者もサービスの受給対象となる。一方、日本では、被保険者は40歳以上の住民で、サービスの受給対象は原則として65歳以上の高齢者のみである。
第二に、ドイツでは3段階の要介護度しか設定されておらず、日本の要支援や要介護1程度の認定ではサービスを受けられない。その意味では、日本の介護保険はドイツよりも「範囲が広い」といえる。第二に、ドイツでは3段階の要介護度しか設定されておらず、日本の要支援や要介護1程度の認定ではサービスを受けられない。その意味では、日本の介護保険はドイツよりも「範囲が広い」といえる。 • 第三に、独・蘭では、サービスや施設入所といった現物支給のほか、家族介護者に対して一定額の現金給付も行われているが、日本では原則として現金給付を行っていない 。
介護保険成立の背景 • 高齢化とともに爆発的に増える要介護者・・・・介護が必要な寝たきり老人、痴呆性老人、虚弱高齢者は、1993年で約200万人存在していたものが、2000年には約280万人と増加しており、厚生労働省の予測によれば、この数は2025年には520万人になるという急速なペースである。
措置制度の不備・・・こうした介護サービス需要の増加に対して、介護保険設立前の全額公費の介護福祉システムである「措置制度」は、利用対象者は、ほぼ低所得者で身寄りがないといった事情のある高齢者に限定されており、施設やヘルパー事業の供給数も予算の制限のためにキャパティシーが小さかったこともあり、通常の要介護者を抱える世帯は社会的な手助け無しで、家族介護をせざるを得ない状況であった。措置制度の不備・・・こうした介護サービス需要の増加に対して、介護保険設立前の全額公費の介護福祉システムである「措置制度」は、利用対象者は、ほぼ低所得者で身寄りがないといった事情のある高齢者に限定されており、施設やヘルパー事業の供給数も予算の制限のためにキャパティシーが小さかったこともあり、通常の要介護者を抱える世帯は社会的な手助け無しで、家族介護をせざるを得ない状況であった。
介護地獄・・・このため、家族介護はしばしば「介護地獄」と呼ばれる長時間介護者が目立つようになってきた。内閣府(2003)によれば1999年において主な介護者が1日8時間以上介護している要介護世帯が21.7%、12時間以上が10%となっていた。介護地獄・・・このため、家族介護はしばしば「介護地獄」と呼ばれる長時間介護者が目立つようになってきた。内閣府(2003)によれば1999年において主な介護者が1日8時間以上介護している要介護世帯が21.7%、12時間以上が10%となっていた。 • これに対して、介護する側も、84%が女性、約半数は60歳以上の高齢者であり、負担感が大きく共倒れが社会問題化した。また、なかには、介護の疲れから世話の放棄、暴言、暴力などの虐待事件も急増し、連合総研「介護サービス実態調査」では、介護者の2人に1人が介護される高齢者に何らかの虐待を加えたことが報告されるにいたった。
介護保険成立後の推移 • こうした介護サービス供給の不足を補うために、保険料を支払えば、誰もが1割の自己負担率で介護サービスを受けられるという介護保険制度がスタートしたのである • ドラスティックに変化したのは在宅介護市場である。 • 株式会社を含む営利法人やNPOなどすべての業者が参入できることになった。 • また、介護報酬単価は、固定価格の元で業者の採算レートよりも高い水準に設定されたため、需要拡大の期待も伴って、多くの新規業者が参入することになった。
表1 サービス事業者数の推移(サービス種類別)表1 サービス事業者数の推移(サービス種類別)
表2 介護サービス施設・事業所の常勤換算従事者数表2 介護サービス施設・事業所の常勤換算従事者数
在宅介護分野と施設介護分野に分けてみると、その増加率に著しい違いがある。たとえば、図2は、介護保険給付費の在宅・施設別の推移であるが、介護給付費の伸びの大部分は、実は在宅介護分野で起きたものであり、施設介護分野の伸びは低いことがわかる。在宅介護分野と施設介護分野に分けてみると、その増加率に著しい違いがある。たとえば、図2は、介護保険給付費の在宅・施設別の推移であるが、介護給付費の伸びの大部分は、実は在宅介護分野で起きたものであり、施設介護分野の伸びは低いことがわかる。 • 介護保険開始後に顕現化した需要増に対して、表1、2にあるようにわずかなキャパティシーの増加しか見られず、圧倒的な超過需要が生じ、待ち行列が発生しているのである。その数は、30万から40万人程度。特別養護老人ホームの平均待機年数は5.1から6.8年程度という計算になる。
介護保険開始直後は、むしろ高い要介護度で高い伸び率となっていたが、近年は要支援や要介護1といった軽度の介護度の伸びが高くなってきている。 • 急速に拡大する財政規模を維持可能なものにするために、軽要介護者への給付削減や施設介護の自己負担増が検討されているが、今後、高齢化によって拡大する財政規模をどの点で落ち着けさせるのかという点も大きな政策課題となってきている。
介護保険制度の課題 • 2.需要面の変化と課題 • 2.1 家族介護者の負担感の変化 • まず、家族介護者に対するアンケート調査を見てみると、介護地獄といわれるような長時間介護の状況は、それほど改善していないとするものがある。 • 内閣府「介護サービス価格に関する研究会」(2002)の調査(N=1005) 。主な介護者が1日8時間以上介護を行っている世帯の割合は1999年21.7%から2001年の20.5%と殆ど減っていない。
三鷹市で行った介護保険実施前と実施後の実態調査(N=9045)である杉澤ほか(2005)でも確認。三鷹市で行った介護保険実施前と実施後の実態調査(N=9045)である杉澤ほか(2005)でも確認。 • 1998年と2002年に実施したアンケート調査を比較。「かかりきりではないが毎日お世話をしている」世帯が58.0%から49.5%へ減少している一方、より深刻な主介護者が「毎日かかりきりでお世話をしている」世帯が25.0%から24.2%と殆ど変わっていないことを指摘。 • 身体障害が軽度で痴呆の程度が中度・重度である「動ける痴呆」では、ホームヘルパーの利用率は6%に過ぎず、9割以上が家族介護であり、加えて、介護保険設立後かえって利用率が減少していた。
介護負担感に影響するのは自由時間。介護保険導入後も家族介護者の自由な時間がそれほどに増えていないのは現状である(上田2004)。介護負担感に影響するのは自由時間。介護保険導入後も家族介護者の自由な時間がそれほどに増えていないのは現状である(上田2004)。 • その原因は、機密性の低い日本の住宅では、介護サービスを受ける時にも家族は家を留守できないことが多いからである。 • 杉澤ほか(2005)は、介護に関して相談できる人がむしろ介護保険導入後減っていることが、家族の負担感が変わらない原因と分析している。 • こうした長時間介護の持続や負担感の改善がなされない背景の一つは、日本の介護サービスが在宅中心であり、介護が社会化されても、自宅の介護になるとなかなか開放されないという面があるのかもしれない。
2.2 要介護度・要介護者の状態の変化 • 介護保険導入によるアウトカムとしては、介護者の負担と共に、要介護者の状況の変化 • 井伊・大日(2001)は、介護保険制度に介護予防や要介護度改善へのインセンティブが存在せず、むしろ要介護状態を悪化させる方が給付費が増えるという負のインセンティブが存在するため、介護保険導入によってむしろ要介護状態が悪化するというモラルハザード仮説を指示。
川越(2003)は、島根県の要介護世帯のパネルデータを作成して、2000年10月の要介護世帯の要介護度や痴呆のランクがその後どのように変化をしたのかを追跡した。 • 在宅介護よりも特養、老健、療養型病床群で悪化が著しく改善者が少なく、また在宅よりも、ケアハウス・グループホームなどの在宅分野の擬似施設で改善が著しい。
介護者の就労についての変化 • 介護保険制度が家族介護者にもたらすもう一つの変化は、就労への可能性が広がったとのことである。 • つまり、これまでに介護に縛り付けられていた世帯員が介護サービスの充実によって新規の労働供給に転じる可能性が出てきたのである。こうした可能性については、介護制度が導入される前から盛んに分析が行われてきた。
内閣府「介護サービス価格研究会」(2002)の調査によると、単に介護者の就業割合の変化をみた場合、就業割合は、介護保険導入後かえって減少していた。内閣府「介護サービス価格研究会」(2002)の調査によると、単に介護者の就業割合の変化をみた場合、就業割合は、介護保険導入後かえって減少していた。 • この背景には、「老老介護」と言われるように、介護者の多くが既に高齢者になりつつあり、既に労働市場に出現することが難しいことがあげられる。ホームヘルプサービスの充足量も、介護者が労働市場に出るほど十分ではない可能性もある。
3. 供給面の変化と課題 • 3.1 介護業者のサービスの質、効率化 • 福祉関係者の間には営利法人は機会主義的な行動をとるとの否定的な見解が多かった。また、効率性の達成についても、例えば、南部(2000)は、介護報酬単価が固定されていることから、価格競争が働かず、したがって新規参入をした業者もレントシーキング等の競争を行う
鈴木らの一連の研究は、日本銀行や内閣府において実施した介護保険業者への大規模なアンケート調査に基づいて、サービスの質やサービスの質をコントロールした上での効率性を計測している。その結果をまとめると、①様々なサービスの質の指標を営利・非営利業者間で比較すると、両者の差異はほとんど無いが、公的業者は質が明確に低い、②事業者密度の高い(市場競争の激しい)地域ほど訪問介護サービスの質が高い、③サービスの質をコントロールしたコストは、介護保険導入後参入した新規業者が低く効率的である、となる。鈴木らの一連の研究は、日本銀行や内閣府において実施した介護保険業者への大規模なアンケート調査に基づいて、サービスの質やサービスの質をコントロールした上での効率性を計測している。その結果をまとめると、①様々なサービスの質の指標を営利・非営利業者間で比較すると、両者の差異はほとんど無いが、公的業者は質が明確に低い、②事業者密度の高い(市場競争の激しい)地域ほど訪問介護サービスの質が高い、③サービスの質をコントロールしたコストは、介護保険導入後参入した新規業者が低く効率的である、となる。
3.2 介護施設利用の効率化 • 従来の措置制度では、特に施設介護において、本当に介護が必要な人が利用できないという問題があった。 • 介護保険開始後の施設入所者の要介護度別分布をみたものである。時の推移とともに要介護状態が悪化してゆくことや、2.2で触れたモラルハザードの問題もあり、一概には言えないが、要介護度の分布は明らかに、要介護4や5などの重いものが中心となってきており、これが新規入所者の動向を反映しているのであれば、資源配分が効率化してきているといえよう。
3.3 社会的入院の変化 • 厚生労働省「制度別概算医療費」によれば、老健の医療費の前年同期比は1998年度6.1%、1999年度8.4%と増加してきたものが、介護保険導入後2000年度に-6.8%と減少したものの、2001年度には5.5%とほぼ同水準に戻っており、介護保険制度の導入による老人医療費の抑制効果は一時的であったようである
最近、河口(2004)は、栃木県大田原市の協力を得て、医療保険と介護保険のレセプトデータを分析した結果、介護保険開始後、長期入院者の多くは退院後には介護保険にスムーズに移行したものの、新たな長期入院者が医療保険側で毎年発生しており、量的にあまり変化がないことを発見 • これは、医療機関にとって社会的入院が非常に大きな収益となっていることが根本的な原因であり、施設待機者の受け皿となり続けており、退院した患者についても、実は同一の法人が経営している医療機関と介護保険機関との間で、一種のキャッチボールがなされている場合が多い