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7/1/06 行動経済学 ワークショップ. Are Japanese Individual Investors Subject to the Behavioral Disposition Effect? Takashi Misumi, Tyler Shumway & Hidetomo Takahashi. 三隅隆司. 一橋大学大学院 商学研究科. ディスポジション効果 . 投資家が「損切り」をしない傾向にあるという現象は、ファイナンスでは ディスポジション効果 (Disposition Effect) といわれている(傾向効果、気質効果と訳されることもある)。.
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7/1/06 行動経済学 ワークショップ Are Japanese Individual Investors Subject to the Behavioral Disposition Effect?Takashi Misumi, Tyler Shumway& Hidetomo Takahashi 三隅隆司 一橋大学大学院 商学研究科
ディスポジション効果 投資家が「損切り」をしない傾向にあるという現象は、ファイナンスでは ディスポジション効果(Disposition Effect)といわれている(傾向効果、気質効果と訳されることもある)。 ディスポジション効果 投資家が値上がり銘柄を短期間で売却する一方で、値下がり銘柄を長期にわたって保有し続ける傾向 (Shefrin and Statman(1985))。 本研究の目的 投資家がディスポジション効果を示しているかいなか、そしてそれが人間の心理バイアスに起因するものであるかいなかを、統計的に考察。
本研究の課題 心理バイアスの存在は「損切り」を困難にしているか? • 実務界では、よく知られた「事実」。 • 相場格言にもなっている ・・・ 「損は切って利をのばせ」 - 「損切り」が困難な理由は、まだ明らかではない。 - 合理的な投資判断の結果か? 理由如何によって、インプリケーションが異なる - 情報不足・経験不足によるのか? - 心理バイアスに起因?
先行研究 (1) Odean (1998): アメリカの個人投資家の保有銘柄情報および取引情報を用いて、以下の2つの値を算出。 - PGR > PLRをもって、Disposition effect の存在の証拠と見なす。 - PGR = 0.148 & PLR = 0.098 で、両者は有意に異なる。 → アメリカの投資家は、Disposition Effect を示している。 • Disposition Effect は投資家の合理性に関連した現象でないことも考察。 →Disposition Effect は投資家の心理バイアスに起因するものである。
先行研究 (2) Grinblatt and Keloharju (2001) : フィンランドの投資家(個人および機関)の保有銘柄情報および取引情報を利用。 • 上記2つの情報を基礎に、投資家による 売却 vs. 保有 の意思決定を抽出。 • ロジット分析を用いて、銘柄の売却・保有の意思決定の要因分析(売り=1)。 説明変数: 過去の収益率 キャピタル・ロス・ダミー など - キャピタル・ロス・ダミーの係数は、有意に負。 → (購入価格との比較での)値下がり銘柄は、そうでない銘柄に比 べて、売却される可能性が低くなる。 Disposition Effect の存在と整合的
先行研究 (3) Coval and Shumway (2005), Shumway and Wu (2006): • アメリカの個人投資家(C-S)、中国の投資家(個人および機関)(S-W)の取 • 引情報を利用。 • 投資家ごとに算出された保有銘柄の保有期間にもとづいて、保有株式 • の売却確率を推定。 - Cox Proportional Hazard Model を推定。 - 共変量(covariates)としては、キャピタル・ゲイン・ダミーおよび市場の特性 を表す変数を用いる。 - キャピタル・ゲイン・ダミーの係数は、有意に正。 → (購入価格との比較での)値上がり銘柄は、そうでない銘柄に比 べて、売却される可能性が高くなる。 Disposition Effect の存在と整合的
本研究における研究課題 (1) ディスポジション効果の存在について - 本研究で利用可能なデータは、投資家の取引データ。 - Odean およびGrinblatt & Keloharju のように、保有銘柄情報は利用できない。 • 投資家の日々の保有銘柄に関するデータ作成は困難。 「売り」対「保有」に着目した尺度の構成は容易ではない。 • 「売り」の意思決定に着目 • Coval & Shumway(2005) およびShumway and Wu (2005)と同様、 • 「含み益が発生した場合に、保有銘柄を売ろうと確率」をディスポジ • ション効果の尺度とする。 • ディスポジション効果が存在している場合、「含み益が発生し • た銘柄を売却しようとする傾向は強くなる」はずである。
本研究における研究課題 (2) コックス比例ハザードモデルを用いる積極的理由 • PGR/PLR をもとにした分析 は、投資家特性を変数としたクロス・セクション回帰に • 適していない。 ・ 投資家のDisposition effect の程度を表す尺度として何を用いるか(PGRi - PLRi or PGRi / PLRi )によって、結果が異なってくる。 • logit 分析では、暗黙のうちに、「投資家が“保有 or 売却”の意思決定をするのは、 • 現実に保有株式を売却した時点のみである」と想定されている。 ・ 投資家は、その保有期間において、自身の保有株式を「売却するか否か」を 絶えず考えているはず。 コックス比例ハザードモデルには、既存の分析に伴う上記のような問題点はない。
本研究における研究課題 (3) ディスポジション効果が心理バイアスの存在に起因することについて ・ 心理バイアスの存在に起因する場合には、その効果は持続的。 • 過去においてディスポジションの程度が強かった投資家は、その後 • もディスポジションの程度が強い。 ・ 投資家が心理バイアスに服している場合、その行動は合理的 ではない。 • ディスポジション効果の程度の高い(低い)投資家は、投資成果 • が悪い(よい)はずである。
データ (1) - 日興コーディアル証券から提供されたオンライン投資家の取引データ ・ 同社におけるオンライン開始時点(2001年10月)以降の全取引データ。 データの内容: 投資家コード(個人が特定されないようにマスクがかかっている) 売買コード、 銘柄コード、買取引の日時・価格・数量、取引仕法、 売取引の日時・価格・数量。 • オンライン取引 → 他人の意見が介在しない、投資家自身の判断に基づく取引。 - 株価および修正係数については、日経Quick のデータを使用。
データ (2) データの取り扱いについて 分析の対象とした取引: • 2003年大発会から2005年大納会まで(756営業日)の間に行われた取引。 • 1年間あたり完結取引(買いと売りが対応している取引)の回数が4回以下の投資 • 家の取引は除外。 • 東証上場銘柄のみが対象。 3種の取引データ: • 計測期間内に売買が完結している取引のデータ。 • 計測期間内に「買い」を行った後、「売る」ことはなく、計測期間の終了時点まで持ち続けているという取引のデータ。 • 上記2つの取引を集計した取引のデータ。 (1) の取引を「完結取引」、(2) の取引を「切断取引」、(3) を「全取引」と呼ぶ。
基本統計量 (2) 投資家行動に関する基本情報 投資家は、比較的短期で売って利益を獲得している。 持ち続ける場合、その期間はかなり長く、評価損が発生 (売却した場合に比べて利益が小さい) • 完結取引 (268,866) のうちの 65% は利益計上取引。 • 切断取引 (199,673) においては、利益計上のものは 47% 。 • 利益計上取引の 65% は売却されている。他方、損失計上取引のうちで • 売却されているのは 48 %。 投資行動からは、ディスポジション効果の存在が示唆される。
保有期間の比較 投資家の株式保有期間 ディスポジション効果 値上がり銘柄を早く売却し、値下がり銘柄は 保有し続ける。 ディスポジション効果が存在するならば、損失計上取引の保有期間は、利益計上の保有期間より長くなるはずである。 保有期間の比較からも、ディスポジション効果の存在が示唆される。
ハザード・モデル (1) 保有する銘柄の収益率の大きさが、投資家による株式売却行動にどのような影響を与えるかを考察することを通じて、ディスポジション効果の存在を検討。 【仮 説】 ディスポジション効果が存在する場合、値下がり銘柄に比 べて、値上がり銘柄の方が売却される確率が高くなるだろう。 • 投資家の売買データにもとづいて、銘柄の売却確率を推定。
ハザード・モデル (2) 売却確率の定式化には、Cox Proportional Hazard Model を用いる。 h(t,x) : ハザード関数 (保有銘柄の売却確率を表す) h0(t) : ベースライン・ハザード関数 t : 各投資家による各銘柄の保有期間 GAIN : 保有期間収益率が非負である場合に値1をとるダミー変数 MRET: 過去5日間の市場収益率の平均 MVAR: 過去5日間の市場収益率の2乗の平均 MVOL: 過去5日間の市場の取引額の平均 • 共変量はすべて時間依存(time-varying)。 • 売却データを用いながら、保有の意思決定も反映。
ハザード・モデル (3) ディスポジション効果が存在する場合、ゲイン・ダミーの係数(β1) が正であると期待される。 Obs=13,324 株式売却に影響を与えると考えられる市場要因(マーケットの収益率など)をコントロールした上で、中央値に位置する投資家は、値上がり銘柄を値下がり銘柄の約4.1倍の確率で売却する傾向にある、との推定結果。 → ディスポジション効果の存在と整合的。
ディスポジション効果の持続性 (1) ディスポジション効果が、心理バイアスの存在に起因する場合には、その効果は持続的。 • 2004年、2005年の取引データを別々に • 利用して、投資家のディスポジション効 • 果の程度を推定。 • 投資家のディスポジション効果の強さが、 • 2004年と2005年の間でどの程度変わっ • たかを考察。 • 2004年と2005年の間の、投資家のディスポジション効果の強さ • には、正の相関が認められた。(順位相関係数は、約 0.52) 。 ディスポジション効果は、強力かつ安定的な投資家の特性である。 → 人間の心理バイアスに起因することと整合的。
ディスポジション効果の持続性 (3) 株式売却(サンプル期間終了)時点での実現収益率(評価損益率)と相対ハザード率 (収益率+15%以上が基準) - 収益率が正になると相対ハザード率(株式売却確率)が上昇 ・ ディスポジション効果の存在と整合的 - 相対ハザード率(株式売却確率)の計上は、各年で類似 ・ ディスポジション効果の持続性 ディスポジション効果は、強力かつ安定的な投資家の特性である。
ディスポジション効果と成果 (1) ディスポジション効果は、投資家の非合理性を反映しているのか? 【仮 説】 ディスポジション効果が、情報に基づく合理的判断の表 れであるならば、ディスポジション効果の程度と投資成果 との間には、有意な正の関係がみられる。 他方、ディスポジション効果が、人間の心理バイアスを反 映した非合理的行動の結果であれば、両者の関係には有 意な負の関係がみられる。 • 2004年の取引データを用いて、投資家をそのディスポジション効果の • 程度に応じて5グループに分類。 • 2005年の取引データを用いて、投資家の銘柄売買からの投資収益率 • を計算。(最大保有期間を20日と想定)。 • - ディスポジションの程度と投資家の関係を考察。
ディスポジション効果と成果 (2) ディスポジションの程度が強くなるにしたがって、投資成果は低下していく。 ↑ ↓ ↑ ↓ ↑ ↓ ↑ • 各投資家グループの取引銘柄間で、市場ベータに有意 • な差はみられないため、投資成果の相違は、ポートフォ • リオ選択に伴うものではない。 - 平均保有期間は、ディスポジションの程度が強くなるにつれて長くなる。
ディスポジション効果と成果 (3) ディスポジションの程度が強くなると、投資成果が低下していくという関係は、他の要因をコントロールした上でも統計的にも経済学的にも有意。 • Model 1においては、ディスポジションの程度が1分位上がるごとに、20日間で • の投資成果が、11.4ベーシスポイント下がる。 ディスポジション効果は、投資家の心理バイアスに基づく不合理性に起因するものであるといえる。
結果のまとめ これまでの分析では、以下の点が確認された。 ・ 分析の対象となった投資家の行動は、ディスポジション効果 の存在と整合的である。 ・ ディスポジション効果は、強力かつ安定的な投資家の特性で ある。 ・ ディスポジション効果は、投資家の心理バイアスに基づく不合 理性に起因するものである可能性が高い。